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長州VS会津 今だに残る恨み 安倍首相が「おわび」

   「先輩がご迷惑をおかけしたことをおわびしなければいけない」。
   安倍晋三首相が2007年4月14日、こう発言した。場所は福島県会津若松市。参院福島補選の応援演説の中で述べた。今から約140年前の幕末期、長州藩(山口県)などの新政府軍と旧幕府軍側の会津藩との戊辰戦争を意識したものだ。安倍首相は山口県出身。官軍に対する強烈な恨みが今も生き続ける土地柄ならではのあいさつだった。

元会津若松市長は「よく言ってくれた」

白虎隊記念館のホームページ
白虎隊記念館のホームページ

   14日夕のニュースで安倍首相の発言を知った元会津若松市長、早川広中さん(71)は「よく言ってくれたと思った」という。現在は地元で「白虎隊記念館」の理事長を勤め、白虎隊に関する著書もある。「当然の発言。もっと早く言ってほしかったくらいだ」との思いも頭をよぎった。早川さんによると、「長州への恨みは戊辰戦争だけではない」と指摘する。「明治維新以降も長州閥の高官が会津出身者の登用を妨害するなど長い経緯が積もり積もった問題だ」という。

   市長時代の1988年ごろ、山口県萩市(旧長州藩城下町)から姉妹都市を結ぼうという提案があり、一部の会津若松市議らが準備を進めたが、当時50歳以上の人を中心に「とんでもない」という批判が出て中止したという。現在では「若い人の中にはもう(許して)いいのでは、という人もいますよ」

   では若い人はどうか。会津若松市の市役所の30代、40代の数人に話を聞いてみた。「こだわりはないですね。(首相発言も)特に感想はない」という人がいる一方、「大人の態度としていつまでも言い募るのはよくない、と表向きは言っていますが、実は親や祖父母から聞かされた恨み話がしみついているという部分もある」となかなか複雑な感情があることを明かす人もいた。

   また、市役所の別の職員によると、市長が県外の会合に出かける際に山口県内の首長と同席予定がある場合、主催者側の自治体関係者から「同席になって大丈夫でしょうか」などの問い合わせがあることも珍しくないという。「時間差で(2人の市長が)入れ違いになるよう調整してくれる自治体もある」と周囲から気を使われているそうだ。1996年、萩市長が市民劇団の招きに応じ、初めて会津若松市を「非公式」に訪れ、翌年会津若松市長が「答礼」として萩市を訪問した。出迎えの場面では握手した2人だが、記者会見の場で握手を求められると、会津若松市長は「(和解として)ニュースで流れるには時間が必要だ」と応じなかった、というのは今でも語り草となっている。

「山口県民には違和感を持つ人もいるかも」

   一方の山口県側の反応はどうか。2006年9月に発足した「長州と会津の友好を考える会」の山本貞寿代表(68)。20年以上地元の萩市で友好活動に取り組み、今回全県組織にした。「ほう、そんな発言をしましたか」。山本さんは安倍首相発言を知らなかった。山本さんは長年会津若松市へ通い、「友人も何人もできた」と話すが「今でも基本的に厳しい態度の人は多い」と肌で感じている。一方で「これまで私は謝罪とか和解とかは口に出していない」ともいう。「互いに悪いところを言い募るのではなく、良かったところをもっと見てほしい」と活動を進め、少しずつではあるが理解の広がりを感じるという。

   山本さんは安倍首相発言について、「戊辰戦争だけでなく、その後の歴史を含めどこまでご存知でそういう発言をされたのかな、とは思う」という。自身は批判的な気持ちはないというが、「(山口)県民の中には違和感を持つ人もいるかもしれませんね」と話した。なかなか歴史を語り考えるのは難しい問題のようだ。