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突然白旗、敵前逃亡した ペンタックス経営陣の無責任

   HOYAから株式の公開買い付け(TOB)の提案を受けているペンタックスが、合併を白紙にした従来方針を撤回してTOB受け入れを決め、2007年5月31日経営統合問題は決着した。ただ、経営統合を巡って取締役が分裂していたペンタックスは、TOBの成立を見届けずに6月下旬の株主総会で綿貫宜司社長以下全取締役が総退陣するという異例の選択を迫られた。「M&A(企業の合併・買収)時代への対応力ゼロ」と関係者があきれるほど迷走を繰り返した挙句、突然白旗を掲げ、推理小説のように「そしてだれもいなくなった」のだ。

ほとんど根回しせず独断専行で決めた、という不満

   「対等の精神」による合併からTOBによる子会社化へ、猛反対から態度保留を経て受諾へ、合併推進派の社長解任から慎重派の社長が昇格、そして今度は取締役の総退陣へ。

   4月上旬から約2カ月の間にペンタックスの状況は猫の目のように変化した。

   この事態を招いたのは感情的な対立だ。06年12月にHOYAとの合併の基本合意を発表した浦野文男前社長が直前まで社内にほとんど根回しせず独断専行で決めた、という不満が大半の取締役に強かった。この「社長憎し」に加え、HOYAの鈴木洋代表執行役CEO(最高経営責任者)が1月の決算発表の場で、ペンタックス側の思い入れが特別強いカメラ事業の切り離しの可能性を否定しなかったことが伝わり、拒否反応が広がった。

   「相手さんは米国流経営が売りの会社でしょう。うちは町工場だから」と、5月11日に中期経営計画を発表したペンタックス幹部はHOYAへの反感を隠さなかった。

   前社長を解任したペンタックスの現経営陣は合併を白紙撤回して若手の綿貫氏を社長に担ぎ、「HOYAがTOBに踏み切れば敵対的なTOBになる」とけん制して時間を稼いで別の生き残り策を探った。中期計画で示した単独成長戦略が株式市場から好感を持って受け止められれば、6月下旬の株主総会に現経営陣に事実上の退陣を迫る株主提案を出している筆頭株主の投資会社スパークス・グループの譲歩も引き出せる、と読んでいた。

幹部社員から社長を支える言葉は出ず

   しかし、中期計画に対する市場の反応は冷たく、ペンタックス経営陣のもくろみはもろくも行き詰まった。粘ってTOBを逃れても株価が急落すれば、今度は海外メーカーなどに買収される危険度が高まる。計画発表からわずか5日後の16日、HOYAにTOB受諾を伝えた。

   問題はその後だ。筆頭株主の賛同を引き出せなければ総会は乗り切れないと判断した経営陣の狼狽は続き、綿貫社長の続投にこだわって裏目に出た。綿貫氏を担いだ取締役5人は「社長が残って会社の将来を見届けてほしい」と言いだし、社長以外の7人が退任すれば混乱の責任は取れるとの案をまとめたが、筆頭株主は首を縦に振ってくれない。

   綿貫社長は社内の幹部会で結束を、と呼びかけた。しかし、執行役員以下の幹部社員からは社長を支える言葉はほとんどなかった。「土壇場で社内からも突き放され、辞任やむなしと判断したのでは」(ペンタックス関係者)という。

   TOB後に子会社になるとはいえ、経営を担当していた取締役が混乱の中で全員を去るのは、無責任な"敵前逃亡"と批判されても仕方ない。役員構成も決められないのに、独立路線どころではない。ペンタックスの選択は、会社をそっくり明け渡す「落城」も同然だ。今回のケースは感情に走り、従業員の存在を置き忘れた失敗という悪しき前例になるのかもしれない。