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TBS・楽天問題 和解交渉実らず全面対決へ

   楽天によるTBS株買い増し問題でTBSは2007年6月11日の常勤役員会で、楽天に対する買収防衛策の発動の是非を、社外の有識者で構成する企業価値評価特別委員会(委員長、北村正任・毎日新聞社社長)に諮問する方針を決めた。特別委に諮問すると、特別委の評価期間(最大90日)が始まり、防衛策発動の判断に向けた時計が回り出す。

   TBSと楽天の間では、2006年秋から楽天がTBS株の一部を手放すとともに業務提携を結ぶという和解の道が探られた。しかし、この和解策に楽天の三木谷社長が最終的に首を縦に振らず、交渉は行き詰まった。

楽天の「名誉ある撤退」成らず、攻勢を強化

   もともと、「通信と放送の融合」を強く主張してきた三木谷社長に、TBS株を売る意志があったのかは疑わしい。

   確かにTBS株が購入時より値上がりしている現在なら、楽天は売却益を得られる。だがそれでは、楽天がこれまで「『売り抜け』を狙うグリーンメイラーではない」と繰り返してきた主張に疑念が持たれてしまう。加えて、TBS株を売れば、1,200億円近くの巨費を投じてTBS株を取得した経営判断が、「失敗」だったことを白日の下にさらすような形になりかねない。

   結局、楽天の「名誉ある撤退」は成らず、07年4月には、手放すどころか逆にTBSに対し「20%超まで株を買い増す」と通告した。

   TBSには、「結局、楽天は三木谷氏のオーナー会社なのだ」(TBS幹部)との認識を改めて思い知らされたという。

   買い増し通告で両社の対立がより鮮明になった。

   楽天は5月7日、TBSの株主名簿を閲覧、6月28日開催のTBS定時株主総会で、三木谷社長らをTBS社外取締役に選任することを求める株主提案への賛同を求め「委任状争奪戦」を開始した。TBS側はこの総会で買収防衛策の導入の承認を求める方針で、両社の正面対決は避けられない情勢だ。

着々と応援団増やすTBS

   5月20日には、三井住友銀行の奥正之頭取が仲介して、三木谷社長と井上弘TBS社長のトップ会談が行われた。だがこれも平行線に終わった。三井住友銀行は両社の主要取引銀行だが、既に両社が臨戦態勢に入っている状況では、仲介成功の可能性はもとから薄かったのだ。

   一方、5月30日にはTBSの労働組合「東京放送労働組合」が、(1)楽天は金融事業が収入の大部分を占め、報道機関の公共性と独立性を維持するには不適当(2)オーナー企業で、TBSの自由闊達な文化に悪影響を及ぼす――として楽天提案への反対を表明した。6月5日にはTBSをキー局とするJNN(ジャパン・ニュース・ネットワーク)加盟27社もTBS支援を表明した。

   TBS経営陣は着々と楽天対策の応援団を増やしているのだ。

   このようにTBS経営陣だけでなく、社員や労組、系列ネットワークが、楽天に対する反発を強めていることは、楽天には不利の大きな材料だ。

   メディア企業の市場での価値は、ニュースやドラマなどのコンテンツを収集・制作する社員の能力に依存する。仮に楽天がTBS株を買い増して経営への影響力を高めたとしても、社員が三木谷流のやり方を受け入れなけという事態が予想できる。人的な面での融合もままならなければ、楽天が繰り返し主張している「通信と放送の融合」によるシナジー効果も絵に描いた餅に終わりかねない。

楽天の「安定株主工作は特別背任」に、TBSは「名誉毀損だ」

   それでも楽天は攻勢をさらに強め、6月6日には「TBS現経営陣による株式持ち合いなどの安定株主工作は違法行為の疑いがある」として、TBSの株式持ち合い状況を調べるために、TBSの会計帳簿の閲覧を求める仮処分を東京地裁に申し立て、法廷闘争に入った。

   楽天側は「安定株主工作は現経営陣の自己保身が目的という場合が多く、場合によっては特別背任罪にあたる」とまで主張している。これに対して井上TBS社長は「当社と当社取締役の名誉を毀損するような主張は理解に苦しむ」と強い不快感を示している。 仮処分申請について、ある楽天幹部は「(両社の関係が)うまくいって合意すれば、『そんなこともありましたかね』となる」と、事もなげに語った。だが、本気でそう思っているとすれば、楽観的に過ぎる。

   今後、考えられるシナリオは3通りだ。楽天がTBS株を手放すか、逆にさらに資金を調達して買い増すか、現状の20%前後のままに留めるか。6月のTBS株主総会での株主の判断は、楽天によるシナリオの選択に大きな影響を与えることは間違いない。