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「ネットと放送融合」の利益 説得できずに楽天惨敗

   2007年6月28日に開かれたTBSの定時株主総会は、経営者側が提案した買収防衛策の導入を出席議決権の77.1%の圧倒的多数で承認した。楽天側が株主提案した三木谷浩史・同社社長ら2名の社外取締役選任案は、外国人投資家や個人株主の一部の賛同で楽天保有株に3%弱を上乗せ獲得できたに過ぎずに惨敗した。

   楽天が大多数のTBS株主の支持を得られなかったのは、三木谷天社長の主張する「ネットと放送の融合」の戦略によって、どの程度の経済的利益が生まれるのか、説得的な根拠を示せなかったことも大きい。

規制を受けずに発展してきたネット企業とは、気風が違う

楽天、TBSに「惨敗」
楽天、TBSに「惨敗」

   楽天は05年10月にTBS株15.46%を取得したうえで、「世界に通用するメディアグループを設立する」として、TBSに経営統合を申し入れた。その後、両社は同年11月、みずほコーポレート銀行の仲介で和解し、実務レベルで業務提携交渉が行われた。
   TBSは06年6月に楽天側の意向も踏まえて26項目の具体案をペーパーにまとめた。

   主な項目は、

楽天トラベルと連携した紀行番組
プロ野球セパ交流戦のゴールデンイーグルス対ベイスターズ戦のネット配信
楽天のネット配信サービスへのTBSコンテンツの提供
映画やアニメの共同出資・制作
共同イベントの開催
TBS出演者らによる楽天サイトでのブログ
番組と連動した商品開発・販売
楽天サイト・メルマガによるTBS番組宣伝
営業上の成果に応じて広告料を設定する「成功報酬型広告」のテレビCM

――などだ。

   このうち、成功報酬型広告については、TBSは「従来のCMへの影響が大きく、非現実的モデル」と注釈をつけた。

   免許が必要なテレビ局には放送法などの規制も多く、基本的に規制を受けずに自由に発展してきたインターネット企業とは、気風の違いも大きい。番組制作にかかわる議論では、放送事業の公共性でも認識のギャップも表面化した。

   この提携案は06年秋には数項目に絞り込む寸前まで詰められた。同時に、楽天保有のTBS株の売却と、両社の業務提携を一まとめにした解決策が検討されており、映画やアニメの共同出資・制作などは可能性があった。しかし、最終的に三木谷浩史・楽天社長がTBS株売却に同意せず、業務提携も立ち消えになった。

提携案に見当たらぬ「他に類をみない先進サービス」

   もともと、26項目のなかには、TVコンテンツのネット配信など、既にネット業界で先行例があるものが多い。「他に類をみない」「先駆者利益を享受できる」先進サービスは見当たらない。これには、まとめられた項目のなかに、楽天の独自のネット技術を活用した提案が一つも含まれていないことも影響している。

   楽天側には、楽天会員の拡大と囲い込みのためTBSのコンテンツを活用する意図がうかがえる。だが、技術的にも、利益を生み出すビジネスモデルとしても、「ネットと放送の融合」と誇れるレベルではない。かつてTBSに経営統合を提案した際に掲げた「世界に通用するメディア」の理念にいたっては、影も形も残っていない。

   この「楽天・TBS」でも、その前の「ライブドア・フジテレビ」でもそうだが、新興ネット企業がテレビ局に経営統合や提携を迫った例では、いずれも成果が出ていない。

   とはいえ、テレビ局などの既存メディアの側にネットへの関心がないというわけではない。
   ネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」のスレッドで生まれた「電車男」のコンテンツは、ネットで話題になった後、映画やテレビ番組に発展した。
   また、著作権のあるテレビ番組の投稿を巡り、テレビ局側はネット上のビデオ共有サイト「YouTube」と厳しく対立していたが、今ではテレビ局の一部は、YouTubeと提携したうえで、コンテンツ配信に乗り出している。

   楽天はTBS株主総会での大敗を機に、自身がネット企業としてどれだけ先進的なのか、既存メディアにどれだけ魅力的なのかを訴える必要があるといえそうだ。