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クインランド「倒産」 Web2.0「空っぽの洞窟」なのか

   「Web2.0」を体現しているとして注目されていたベンチャー企業が多額の負債を抱え、民事再生法の適用を申請した。直接の原因は「M&A(企業の合併・買収)を繰り返して資金繰りに失敗したから」とされているが、本当の原因はどうなのか。「Web2.0」や「ロングテール」という考え方も少々色あせてきたようだ。

佐々木俊尚氏の著書で27ページにわたって紹介された

クインランドが経営する地域ポータルサイト「Qlep(キューレップ)」
クインランドが経営する地域ポータルサイト「Qlep(キューレップ)」

   ウェブサイト制作支援の「クインランド」(兵庫県神戸市、大証ヘラクレス上場)は2007年10月18日、大阪地方裁判所に民事再生手続きの開始を申し立て、保全命令を受けた、と発表した。負債総額は203億円。大阪証券取引所は、これを受けて同社の上場廃止を決めた。

   経営コンサルタント会社「日本エル・シー・エー」で1,000社以上の経営に携わった、元コンサルタントの吉村一哉氏が96年に起業したベンチャー企業だ。中古車チェーン「ガリバー」のフランチャイズからのスタートだったが、「車・食品・住宅・教育・娯楽」の5分野で次々にM&Aを繰り返し、事業を拡大した。02年4月には、ナスダック・ジャパン(現・大証ヘラクレス)への上場を果たしてもいる。ところが、M&Aのために投下した資金の回収が進まず、有利子負債が膨らんで財務状況を圧迫したのだという。06年6月期には赤字に転落、吉村社長自身も06年9月の業績説明会で、

「5大市場に関連する事業会社のM&Aを性急に追いすぎた。人材育成やマネジメントが足らなかった」

と、「敗因」を分析している。

   実はこの企業、「Web2.0」企業としても知られている。例えば、IT系の書籍を多く出版しているジャーナリストの佐々木俊尚氏の著書「次世代ウェブ グーグルの次のモデル」(光文社新書)でも、27ページにわたって紹介されている。

「虎の子」であるはずの事業も赤字

   同書では、同社は、これまでは失敗例も多かったナレッジマネジメントシステムの導入に成功した事例として紹介されている。この成功には、データそのものだけではなく、そのコンテキスト(文脈)を重視、「コンテキストデータベース」として活用したことが成功の鍵だった、などと説明されている。同社は「集合知とコミュニティ、コンテキストデータベース」の関連分野をパッケージ化して営業支援システムとして企業向けに販売、これを担う「DMES(Digital Marketing Engineering Service)」事業は、同社の主力事業となった。また、この延長として、地域コミュニティーサイト「Qlep(キューレップ)」もオープン、全国で展開している。同書では、全国の中小企業がWeb2.0で言う「ロングテール」の世界に進出できるようになるためのQlepの仕掛けなどについても触れられている。

   ところが、クインランドIR室によると、同社の「虎の子」であるはずのDMES事業もQlepについても、赤字なのだという。特にDMES事業は2期連続の赤字で、その理由は

「M&Aで事業を拡大し、グループ会社でシナジー効果を得ることに注力していた」(06年6月期)
「事業再編・整理を進めており、主要スタッフをそちらに割かれてしまった。まともな営業ができなかった」(07年6月期)

なのだという。Qlepについては

「ウェブサイトとしての価値は高いが、新しい投資が出来ていなかったため」

と説明、概して2.0とは関係ないところでの不振、と言いたげな様子だった。

   なお、佐々木氏の著書では、赤字転落の経緯についても触れてあり、

「この舵取りの失敗はいかにも残念だった。しかし、これまで同社が進めてきたWeb2.0の戦略は、決して間違っていなかったと思われる。その評価は今後、歴史が下すことになるだろう」

と総括している。

   もっとも、Web2.0については、2ちゃんねるの管理人「ひろゆき」こと西村博之氏が、07年10月15日に神奈川県藤沢市で行った講演で

「新しい価値が生まれたのかと言えば、別に何も生まれてない気がする」

と発言しているほか、「ビジネス法則の落とし穴」(学研新書)の帯には、「ウェブ2.0なんて妄想だ!」という文字が躍るなど、懐疑的な見方が広まりつつあるのも事実だ。