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ノラネコのエサやり是か非か 全国各地でトラブル続発

   ノラネコにエサだけやって面倒をみない。確かに、そんなことでは周囲から非難されることも避けられないだろう。が、避妊などをしてエサをやる、いわゆる「地域猫」の活動をしているとみられる人たちも、地域住民とトラブルになっているのだ。何か解決策はあるのだろうか。

「可愛がるなら家に連れて帰って」

ネコのエサやりを巡っては、各地でトラブルが相次いでいる
ネコのエサやりを巡っては、各地でトラブルが相次いでいる

   屋内で飼われていないネコのトラブルでは、朝日新聞が、2007年11月6日付の福岡・北九州版で掲載した記事「野良猫めぐり 対立張り紙」の例がある。それによると、北九州市小倉南区徳吉東3丁目の地域で、ネコへの「エサやり派」と「エサやり反対派」が道路横の同じ場所に張り紙を出して対立しているというのだ。

   張り紙が出たのは、9月末から10月上旬にかけて。「古川住民グループ」と名乗るエサやり派は、「やせ細った小さな命を見捨てることができない。迷惑は分かっているが、責任を持っているつもり」と主張。これまで4匹を連れ帰り、残ったネコのうち1匹には避妊手術をし、近くもう2匹もすると理解を求めている。これに対し、エサやり反対派は、「餌を運んでくる人の自己満足で野良猫が増え続けている。(中略)可愛がるなら家に連れて帰って」と訴えている。住民は、フンや異臭の被害を受けているという。

   この記事をもとに、J-CASTニュースが北九州市動物管理センターに取材すると、久保田勉獣医は、「古川住民グループのことは知らないが、地域猫に取り組んでいるのではないか」とみる。

   「地域猫」とは、1997年に横浜市磯子区で提唱され、2年後に同区のガイドラインにまとめられた考え方だ。磯子区生活衛生課によると、「特定の飼い主がいないネコの対応を何とかしよう」と同課職員や獣医師会、自治会などが相談して考え方をまとめた。「地域で世話をする人が避妊・去勢手術などネコの管理をきちっとすることを通じて、そうしたネコを減らしていこうというもの」(同課)だ。

   ところが、北九州市の例では、「地域猫」の考え方が理解されずに、住民とトラブルになっている。その背景には、ネコにエサをやる人にはまだ、その結果に責任を持たない人がいることもあるようだ。実際、同市では、エサやりによるノラネコが増えているためか、ペットも含めてネコへの苦情が、06年は6年前の倍近い328件に増えている。

東京・杉並区では、エサやりルール化

   各地では、ノラネコの増加に頭を痛めて、アクションを起こす地域住民も出てきた。例えば、鳥取市の若葉台南町内会では07年9月、鳥取県などと相談してノラネコの捕獲に乗り出そうとした。ところが、この計画書が動物愛護団体に流出し、そのホームページに掲載されると、全国から県にも「捕獲処分に反対します」などと抗議の電話やメールが次々に寄せられた。

   県によると、結局、この町内会では9月28日、転居した元飼い主らがエサをやりに来ることを止め、ノラネコの数も減ったとして、捕獲の中止を決めた。元飼い主らは地域猫を実践していたわけではないというが、エサやりに対する住民アレルギーは大きい。

   では、地域猫の考え方を導入すれば解決するのか。これに対し、鳥取県生活安全課では、「まだピンと来ない地域の人が多く、そんな中でエサをやれば、ほかのネコが来て食べてしまうこともある。なかなかノラネコがおらんようにはならない」と言う。たとえ誰かが取り組んでも、地域全体の協力がないと難しいようだ。

   地域猫の考え方がなかなか浸透しない中で、東京・杉並区では07年10月、独自にエサやりのルールを決めた。エサをやる人には避妊・去勢をしてもらい、エサの残りやフンの始末にも責任を持ってもらう、自称「杉並ルール」だ。ルールが守られない場合は、条例による義務化も検討するという。実現すれば、地域猫が制度化されることになる。

   ただ、同区では同時に、ネコに鑑札を付ける登録制を08年度にまず任意登録からスタートさせる考えで、市民団体からは「飼い主がいないネコがいじめられ、捕獲処分される」などと反対が出ている。杉並ルールが地域猫を育てるかどうかは不透明だ。

   もっとも、地域猫は、飼い主という責任の所在が明確なものでない以上、依然としてトラブルが残る。猫がどこでフンをするかは分からず、エサをやる人が責任を持つのは事実上不可能だ、という反発は強い。また、ノラネコの場合、人になつかず、そのため避妊・去勢が難しい事実もある。その手術費用2~3万円を賄いきれるのかも問題だ。

   北九州市動物管理センターの久保田獣医は、「確かにノラネコは捕まえて殺せばいいという時代ではありませんが、地域猫を育てるためには、地道に話し合って社会的な合意を目指すしかないでしょう」と話している。