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「新聞はなくなり、新しい形態になる」 Web 2.0提唱者オライリー氏

   次世代のウェブについての概念「Web 2.0」の提唱者であるティム・オライリー氏が10年ぶりに来日し、2007年11月15日、約1時間にわたって都内で報道各社との共同インタビューに応じた。

   Web2.0がジャーナリズムに与える影響について、同氏は「Web2.0の影響を最初に受けるのがメディア産業」だとして、既存のジャーナリズムの枠組みには否定的な見解を示した。具体的には、購読料で収入の多くをまかなう収益モデルの見通しの厳しさを指摘、「新聞(Newspaper)はなくなるだろう」と断言、「オールドメディアにとっては自己変革するチャンス」と「出直し」を迫った。

「成功したブロガーはプロのジャーナリストになる」

「新聞はなくなる」とオライリー氏
「新聞はなくなる」とオライリー氏

   一方で、

「ニュース(News)はなくならない」
「『(ブログの登場で)ジャーナリストに仕事が無くなる』というのは言い過ぎ」

とも指摘、新しいジャーナリズムの形態について示唆した。

   「成功したブロガーはプロのジャーナリストになっており、著名なブログは、ブロガーを雇っている」というのが一つで、

「これからのジャーナリストは『ある日は日経に雇われていたと思ったら、翌日には別の会社に雇われる』といったことがあるのではないか」

との持論を展開。「サラリーマン記者」という枠組みが崩壊し、「ジャーナリスト」と「ブロガー」の垣根が低くなることを示唆した。

「紙面よりも先にウェブに特ダネを出す『ウェブ・ファースト』が米国や英国では多いが、日本では、その対極にある」

との、新聞社のウェブサイトのあり方についての質問にオライリー氏は

「(特ダネ掲載を)待っていたら、スクープを失ってしまうこともある。米国では、ブロガーが特ダネを書くこともある」

と、既存の枠組みに、改めて否定的な見解を示した。

   同氏は米技術出版社オライリーメディアの創業者兼最高経営責任者(CEO)。記者団とのやり取りの概要は以下のとおり。

インタビューは「Web2.0 EXPO Tokyo」基調講演の直後に行われた
インタビューは「Web2.0 EXPO Tokyo」基調講演の直後に行われた
――Web2.0では、「ユーザーの参加」が重要なコンセプトである一方で、「参加者」が作り出す「ノイズ」について懸念する声もある。ブログのコメント欄や掲示板に書き込みが殺到し「炎上」する状態のことなどだ。Web2.0世代では、この問題をどのように管理していけば良いのか。

   UGC(User Generated Content、ユーザーが作成したコンテンツ)について語るときは、「ハリー・ポッター」を始め、すべてものが「ユーザーによって作られたもの」という認識が必要だ。まだ、これらの扱い方を学び切れていない。Web2.0がもたらしているチャンスのひとつで、UGCを持つだけでなく「管理」することが重要。例えばグーグルは、他から多くリンクされているUGCのページランクを上げるなどして、「評判」を管理している。ブログのコメントについて言えば、「ある種のコメントは表示させない」などの技術的対策ができるし、(掲示板などの)ウェブサイトへの書き込みで言えば、スラッシュドットが良いモデレーションシステム(ユーザーがユーザーのコメントを評価するシステム)を備えている。これは「どうすれば改善できるか」プロセスのひとつで、「問題があるから、やめてしまおう」とするべきではない。(目の前にあるのは)問題なのではなく、チャンスなのだ。

――(出版とウェブという)古いメディアと新しいメディアとの共通点と違う点は何か。Web2.0をメディアとしてどう考えているか。

   出版をする側としても、メディアの変動については承知している。かつては売れた本でも、内容がインターネットで参照されるようになるので、売れなくなってしまった。出版のやり方を変えていかないといけない。顧客が求めるコンテンツも、我々が作るコンテンツもかわっていく。挑戦でもあるし、チャンスでもある。また、ユーチューブのような、「ユーザーが面白いものを見つけ、プロモートできる」仕組みを見つけた会社が成功するのではないか。

――Web3.0では、どんな技術が登場するのか。

   2つから3つの分野に注目している。ひとつは、情報を集めるもの、という意味での「センサー」だ。例えば、GPS付きのカメラで写真を撮れば、写真の他に「どこで撮ったのか」という情報が得られる。これをウェブで共有すれば、面白い使い方ができるのではないか。もうひとつの方向性としては、携帯端末についてだ。インターネットスタイルの革新は、携帯端末の上で起こっている。

――Web2.0のメディア産業への影響は?

   (Web2.0の)影響を最初に受けるのがメディア産業で、その次がソフトウェア産業だと思う。グーグルやヤフーもメディア企業で、メディアの革命は、企業の興亡と繋がっている。(巨大メディア企業である)ニューズ・コーポレーションがウォール・ストリート・ジャーナルや(SNSの)マイスペースを買収したが、オールドメディアがニューメディアを買収することがある一方で、ニューメディアがオールドメディアが買収する、ということもあるだろう。収益モデルの面で挑戦を受けるだろう。新聞(Newspaper)はなくなるだろうが、ニュース(News)はなくならない。オールドメディアにとっては、自己改革(re-invent)をするチャンスだ。

――ジャーナリズムはどう変わると思うか。これまでジャーナリストは「プロ」だったが、今ではブログジャーナリストや市民ジャーナリストなどが誕生している。これらの間に「対決」などが起こるのではないか。

   成功したブログジャーナリストは、プロのジャーナリストになっている、ということを理解する必要がある。今ではトップにあるブログは、みんな商売をしていて、みんなブロガーを雇っている。「(ブログの登場で)ジャーナリストに仕事がなくなる」というのは言い過ぎだ。これからは、「ある日は日経に雇われていたが、次の日は別の会社に雇われる」といったようなことが起こるのではないか。

――紙面よりも先にウェブに特ダネを出す「ウェブ・ファースト」が米国や英国では多いが、日本では、その対極にある(編注: 日本では産経新聞のみが「ウェブ・ファースト」の方針を打ち出している)。

   特ダネをつかんだのであれば、出来るだけ早く掲載した方が良いのでは。待っていたら、スクープを失ってしまうこともある。米国では、ブロガーが特ダネを書くこともある。(特ダネ掲載を待つのは)近視眼的だ。オンラインで収益を得られるチャンスは大きい。