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GT-RとランエボDCT採用 自動車変速機に新たな競争

   自動車のトランスミッション(変速機)は自らパワーを発生するわけではないが、車の印象を大きく左右する。もちろん走行性能や燃費性能に与える影響も大きい。そんな重要な黒子であるトランスミッションに新たな流れが起こりつつある。マニュアルトランスミッション(MT、手動変速機)をもとに自動変速機能を加えたデュアルクラッチトランスミッション(DCT)がそれだ。日産自動車の「GT-R」や三菱自動車の「ランサーエボリューションX(テン)」といったスポーツモデルに採用が相次ぎ、注目が集まっている。

全力のゼロ発進では鋭い出足にのけぞる

「GT-R」などのスポーツモデルにDCTの搭載が相次いでいる
「GT-R」などのスポーツモデルにDCTの搭載が相次いでいる

   渋滞やストップ・ゴーが多い日本国内ではオートマチックトランスミッション(AT)と自動無段変速機(CVT)が新車販売の圧倒的多数を占める。かつて主流だったMTは市場から追いやられ、わずかにスポーツモデルやコンパクトカーの一部に残るという状況だ。

   それでもなお峠道を好んで走るようなスポーツドライビング派がMTを支持するのは、スピードに合わせてギアを選択でき、アクセルペダルと直結した意のままの加減速が味わえるからにほかならない。燃費も依然、MTが有利なことは変わらない。それに対してATはトルクコンバーターという流体を介する機構が挟まるだけに、ダイレクト感に欠け、優れた燃費も望めないのが弱点とされてきた。CVTも大パワーには適さず燃費向上のツールという色合いが濃い。

   DCTはMTのダイレクト感とATのイージーさ、スムーズさを兼ね備えたトランスミッションを目指して開発された。フォルクスワーゲンが有力部品メーカーのボルグワーナーと協業して2003年の「ゴルフR32」に初めて搭載した。MTをベースにした2ペダルのシステムで、奇数段、偶数段に2つの(デュアル)クラッチを備えることで素早くスムーズな自動変速を可能にしている。

   DCT(フォルクスワーゲンはDSGの名で商標登録している)を搭載した「ゴルフGT TSI」をドライブするとATとの違いは一目瞭然。全力のゼロ発進では鋭い出足にのけぞるが、トルクコンバーターでトルクを増幅させるATのフワッとした加速感とは異なり、エンジンのトルクがストレートにタイヤに伝わる感じがする。1速で不用意にアクセルを操作するとギクシャクしがちなのもMTと共通する

AT、CVT優位の日本ではDCT入り込む余地は少ない

   GT-RとランエボがDCTを採用したのはスポーツカーとしての性能を確保しながら3ペダルMTの煩わしさを解消し、ユーザーを広げるのが狙い。ランエボは20、30代だけでなくドライビングを好む40、50代にも売り込む。「だれでも、どこでも、どんなときでも最高のスーパーカーライフを楽しめる」を標榜したGT-Rは伝達効率の高い2ペダルの変速機を必要としていた。

   DCTは今後、スポーツカーだけでなく普通の乗用車にも搭載が進む見通しだ。ダイムラーから分離したクライスラーは前輪駆動(FF)車をATからDCTに切り替えることを決めた。2012年にはクライスラーのFF車150万台がすべてDCTになるという。ボルグワーナーがクラッチなど主要部品を供給する。欧州でもフォルクスワーゲングループを追って、有力メーカーがMTからDCTへの置き換えを進めると見られている。

   日本はどうか。世界でも有数のAT、CVTの生産設備がDCTの採用にはネックになる。クライスラーが全面採用に踏み切ったのはATが製品、生産ラインとも古く、切り替え時期にきていたことが大きい。その点、トヨタ、日産、ホンダともAT、CVTの生産工場はしっかりしておりDCTが入り込む余地は少ないというわけだ。

   世界的にはDCTは走行性能の面でも燃費の面でも製品企画の選択肢のひとつに食い込んでいくだろう。生産台数の増加に伴いコストの不利も解消されていく。トランスミッションの争いも激しさを増しそうだ。