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ビジネスで成功する能力を生み出す 「地頭力」がちょっとしたブーム

   ビジネス雑誌で最近、「地頭(じあたま)」「地頭力」という一般的でない概念がもてはやされている。いずれも、地頭の能力を磨けば、ビジネスなどで成功するというものだ。ただ、雑誌や本の説く方法に従うだけでは、本当に地頭がいいとは言えないとの声も出ている。

週刊東洋経済が30ページ余にわたる大特集

地頭力を取り上げたビジネス雑誌や本
地頭力を取り上げたビジネス雑誌や本

   広辞苑を引くと、地頭とは「かつらを用いない頭。地髪(じがみ)」とある。ところが、ビジネス雑誌や本ではなぜか、いつの間にかビジネスで成功する能力を生み出す頭脳のような意味で使われるようになった。東洋経済新報社から2007年12月20日に発売されたビジネス書「地頭力を鍛える 問題解決に活かす『フェルミ推定』」によると、人材採用の世界やコンサルティング業界では比較的頻繁に用いられる言葉だという。

   ここで言う地頭は、その由来や定義は必ずしもはっきりしない。が、「地頭力を鍛える」では、数学の問題やパズルを解くのが得意な考える力の強いタイプを「地頭がいい」と定義した。さらに、週刊東洋経済は08年3月8日号で、「地頭力」とは何かを紹介し、30ページ余にわたる大特集を組んだ。それによると、「知識に頼らず、思考によって解答を導き出すのが地頭力」という。

   同誌では、具体例を出して、地頭力を説明している。まず、「東京から大阪までの新幹線で、コーヒーは何杯売れますか?」という問いが出されたとする。これに対し、ネットや本などで調べるのではなく、自分の頭の中にある情報から推測できるかが地頭力のバロメーターになるという。この場合、一例として、売れるコーヒーの数を「買う人数×飲む回数」と考え、さらに買う人数を「乗客数×コーヒーの購入率」に分けるという要素分解をすれば、誰にでも説得力のある回答ができるという。

   一方、ライバル誌の週刊ダイヤモンドは、2月9日号で、「知的生産革命」を特集し、それをもたらす人を地頭が強いとした。同誌では、「自分で収集し、自分で整理した情報に基づいて、自分なりの思考法で問題解決に取り組む」ことと説明している。その例として、ダイヤモンド社から07年12月14日に発売された「効率が10倍アップする新・知的生産術 自分をグーグル化する方法」の著者を挙げた。この著者は、IT企業を格付けするアナリストとして、自らネットコミュニティを運営したり、アフィリエイト広告を利用したりして、独自に企業の株価を査定。ネットバブル全盛期だったにもかかわらず、その格付けを下げ続けたという。

コンサルティング会社やIT企業の面接試験に必要?

   総じて言うと、ビジネス雑誌や本では、何らかの方法に則り、徹底的に考えた人が成功していると指摘しているようだ。

   こうした話題をブログで取り上げている経済学者の池田信夫さんは、出版界にあおられた地頭力ブームを批判する。

「ハウツー本は、すべて結果論に過ぎません。誰でもビジネスに成功できるような秘訣は存在しないのです。例えば、アメリカのアップル社を経営するスティーブ・ジョブズのように、成功した人は、それにふさわしい独自のノウハウがあります。まぐれ当たりもあり、成功者に共通の部分は、世間の人が思うほど多くはありません。成功した人がやったことはいいように見えて、あてになりません。むしろ、失敗した人の方が参考になります」

   ただ、地頭力そのものについては、肯定的にみている。

「例えば、どうすれば生き残れるかを考える生存本能の強い政治家は、金や人を使う勘が鋭い。選挙を戦う地頭力が必要で、バカでは務まりません。その力は、本を読めばいいのではなく、競争圧力の中で鍛えられるものなのです」

   この点について言えば、ビジネス雑誌や本と同意見のようだ。

   地頭力ブームがきっかけで、外資系のコンサルティング会社やIT企業の面接試験が注目を集めている。新幹線のコーヒー販売のような地頭力が試されるケースが多いからだ。グーグルでも「スクールバスにゴルフボールは何個入るか?」などの設問が出されている、とネットで話題になっている。

   池田さんは、こう語る。

「面接での設問は、本で学べない地頭の力を試しているのでしょう。日本のサラリーマンがハウツー本にすがりたい気持ちは分かりますが、自分の頭で考えることに欠けているように思えます。世間がどう言おうと、自分の納得することをする。だから、スティーブ・ジョブズは地頭がいいんです」