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読んでもつまらない 「ブログ」はもう終わったのか
井上トシユキさんに聞く(上)

   「一億総ブロガー」などと言われ、誰もが日記感覚で書く空前のブームが起きている中で、最近はブログを読むのがつまらなくなったとか、ブログなんか終わりだとか、そんな話を聞くようになった。その背景をITジャーナリストの井上トシユキさんに聞いた。

経営者や芸能人が「自分の情報」を発信するツールに

「ブログは終わったのか?」井上トシユキさんに聞いた
「ブログは終わったのか?」井上トシユキさんに聞いた

――「ブログはつまらない」という話をよく聞きます。

井上   日本のブログは「始まりから終わっていた」んです(笑)。アメリカでブログが注目されたのが「9.11事件」の時。ニューヨークの電源ケーブルが落ちてしまい、メジャーメディアからの情報発信がままならないなか、郊外に住んでいたライターやジャーナリストがブログでリアルタイムの情報を発信した。それで、単なる論評や日記ではなく、メジャーメディアに対するゲリラメディア、あるいは草の根ジャーナリズムのツールとしてもブログは使えるね、と認識され発展していくわけです。ところが、当時の日本では、メルマガやテキストサイト隆盛で、ゲリラメディア=ブログというものに対しピンときてはいなかった。

――ところが、2003年頃から一気に注目されていきます。

井上   ライブドアの堀江貴文元社長が火付け役になりましたね。ブログはIRツールだと定義したのですが、これが意外と大きかった。以降、経営者や芸能人、有名人が「一般」に対して「自分の情報」を発信するツールという色合いが濃くなってしまった。それまで、テキストサイトに対して作成、管理のハードルが高いと思って躊躇していた人も、手軽に始められるし、管理もブログ事業者がやってくれるし、コメント欄を通じて交流もできるから、これはいいや、と。「アルファブロガー」(影響力のあるブロガー)なる新語が出てきたこともあり、一般の注目も集めるようになったのです。

――で、どこが問題だったのでしょう。

井上   経営者や著名人に引っ張られるかたちで一般のユーザーもブログをやりだすんですが、経営者や著名人と違い「誰に読ませるのか」というターゲットが不明確だった。報道記事に感想をつける、一方的に意見を書き散らすなど、せっかくの「自分メディア」なのに読ませる工夫がなかった。経営者や著名人も、自分に都合の良いことしか書かない。ブログ事業者側の問題もあります。広告やマーケティングの受け皿として、日本ではブログを性急に拡大しすぎた。

読まれるブログは、実名や正体を露出している

――草の根からメディア化したアメリカとは違った?

井上   書かれた内容の信憑性が不明なこともあって、日本ではまだ「ブログはメディアだ」とか言われてもピンときません。そんな状況なのに、ブログをビジネスとして拡大したい、ブログ界隈で主導権を取りたい人たちなどによって「ブログこそ次世代メディアだ」と煽られてしまった。もっとも、「自分たちが儲け、主導権を取るための」という但し書きをつけてもいいほどです。
   で、ネット世論を作るんだ、世の中を変えていくんだ、新聞やテレビを凌駕するんだなどと、甘く囁きつつ上から目線で始めてしまったのがフツーの人を萎えさせ、ブログより掲示板のほうがやっぱり面白いとなったんだと思います。

――「きっこの日記」など以前はよく読まれ、スターのような扱いをされましたが、最近はあまり話題になりませんね。

井上   「きっこ」によって日本のブログがゲリラメディアとして認められたかというと、そうでもない。結局、誰が書いているのかもわからないし、客観性、信憑性の担保がないからなんです。アメリカのトップブロガーは実名を出し、自分で取材や調査をしていますが、日本のブロガーは基本的に匿名での論評が多い。ご指摘の「きっこの日記」も匿名ですよね。偽メール事件、耐震偽装問題を取り上げ、イーホームズ社長とのやり取りも載せ話題になりましたが、よく考えてみると、どこまでホントなんだ、と。バックにプロの記者が付いていると言われていますが、匿名のスタイリストがどうやって政治の爆弾ネタをとってきたのか。タイミングをみて、本人が露出してネタばらししても良かったかもしれません。

   ――匿名で書いているから誰かわからない。書いてあることが事実かどうかもわからないから、ブログから遠ざかるんですね。

井上   いまも読まれているブログは、実名や正体を露出しているか、現実社会での専門性が読んでいてハッキリとわかる人のもの。現実社会で通用している人は、ブログ社会でも通用しているわけです。趣味を追究した内容や、実体験に基づいたことを書いたものならともかく、よくわからない人による「オレが、オレが」の論評ばかりでは読むほうもツライでしょう。

井上トシユキ(井上俊幸)プロフィール
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。TBSラジオ「アクセス」毎週木曜担当。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社刊)「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文芸春秋社刊)など。