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「自分は重要な人間だ」と思い込む 「自己愛性人格障害」とは何か 

   茨城県土浦で8人を連続殺傷した犯人が、人格障害の一種「自己愛性人格障害」と診断された、と各紙が報じている。この障害は「自分は重要な人間だ」「周りは自分を理解できない」と思い込むのが特徴だ。ただ、一方で本当に「自己愛性人格障害」なのかという指摘もある。

「世が世ならば、自分はもっと高い地位にいたはずだ」

「魔法の世界は現実と違い、自分は特別な存在になれる。すべてが自分の思い通りにできる。だから死にたい」

   2008年8月31日「朝日新聞」は金川真大被告がこのように供述していると報じた。茨城県土浦市のJR荒川沖駅で08年3月に8人を殺傷した犯人は、高校を卒業してから進学も就職もせず、コンビニでアルバイトをしていて、家に帰れば部屋にこもってゲーム三昧。一緒に暮らしている家族とはほとんど口をきかなかった。そして次第に、「世が世ならば、自分はもっと高い地位にいたはずだ」と思い込むようになった。逮捕後、捜査関係者にも真顔でそう話し、不満を口にする場面もあったという。そんな「本来」の自分になれる理想世界を死後に求めた。犯行に及んだのは死刑になるためで、「自殺は痛いからいやだ」「派手な事件を起こして死刑になりたかった」として身勝手極まりない理屈を述べているという。

   「自己愛性人格障害」というのは聞きなれない病名だが、この人格障害には、幼少期に過保護に育てられ、「私は特別な人間なんだ」と思い込むタイプがあるという。厚顔無恥、誇大、顕示欲の強さなどが特徴とされる。また、幼い頃から親の愛情を受けなかったために、「自分は本当はもっとすごいんだ」と空想して、傷付いた自尊心を取り戻そうとするタイプもあるという。

   主な特徴としてアメリカ精神医学協会のマニュアルには以下の9つが掲載されている。

(1)自分の重要性は大変大きなものと考えている。
(2)限りない成功、権力や才能といった空想にとらわれている。
(3) 自分が特別な人間であるため、地位の高い人にしか自分は理解されないと思っている。
(4)過剰な賞賛を求める。
(5)自分だけに特権があると思っている。
(6)自分自身の目的を達成する為なら、他人を利用する。
(7)他人に対する共感が欠けている。
(8)他人に嫉妬する。
(9)尊大で傲慢な態度や行動をとる。

   このうち、5つ以上当てはまる場合は障害の可能性が高いと言われている。 「自分は特別な存在」と話す金川被告は、(1)や(5)にあてはまる可能性がある。また、現実の世界では特別な存在になれないが、「魔法の世界」ではなれると思い込んでいる、という点では(3)に該当すると思われる。このように、金川被告の言動は「自己愛性人格障害」を疑わせる。

障害の裏には自己嫌悪があり、それを隠すために思い込みが出る

   自己愛性人格障害の患者を診たことがあるという醍醐病院(京都市)の有馬成紀院長は、

「この障害の裏には自己嫌悪があり、それを隠すために自分は本来は優れた人間なんだと思い込みます。しかるべき環境だったら、社長になれる、ノーベル賞を取れると言う人もいます。ただ、何も根拠はなく、実現のための努力をしようともしません。うまくいかないと、すべて周りのせいだと思っています。会社内でもそのような態度なので、転職先で次々と首になったという人もいました」

と明かす。しかし、

「アメリカに比べて日本では症例が少ないのが現状で、なかには誤診されていることもあると思います。言葉で定めた診断基準で見極めるのは難しい」

とも指摘する。

   確かに、患者の中には診断中に気に障ることがあるとキレて、暴力を振るうこともあるが、

「この手の患者さんは暴力を振るうといっても、大怪我させようとか、ましてや殺そうと思うことはありません。土浦の事件の場合は計画的に事を運んだようですが、自己愛性人格障害では考えにくいです。該当するかどうか・・・」

と疑問も口にする。

   治療はカウンセリングをベースに行う。治療開始は早いほどいいが、患者は自分が病気だと思っていないため、自ら治療を受けにくることはほとんどない。もし、周囲の人が疑わしいと思ったら心療内科に相談して、早期に治療を受けさせる必要がある。