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NHKの高視聴率に危機感 民放がドキュメンタリー重視

   若者のテレビ離れが進む中、民放各局が中高年向けにシフトし始めた。バラエティやドラマ全盛だったゴールデンタイムに、ドキュメンタリー番組をぶつけてきたのだ。視聴率アップの見通しはあるのだろうか。

NHKのゴールデンタイム番組は団塊世代に受けた

「オーソドックスな番組を続けているだけで、受けや視聴率を狙っているわけではないんですよ。結果的に選んでいただいたことはありがたいです」

   夜7~10時台のゴールデンタイムで、NHKは、2008年4~9月の上半期の平均視聴率が13.6%にもなった。これは民放も含めて最も高い数字だ。その原動力になった「ニュース7」「クローズアップ現代」について、広報部では、NHKらしくこう控え目に喜びを表す。

   高視聴率については、定年退職して時間ができた団塊世代がこうした番組を好んで見たため、との見方が強い。特に、男性の場合は、民放のバラエティやドラマにはあまりなじめなかったようだ。NHK広報部でも、「比較的、お子さんや若い人よりも中高年の方に見ていただいています」と認める。北京五輪や災害多発という一時的要素も理由に挙げるが、今後もNHKの番組は団塊世代を中心に支持を集めそうだ。

   この状況に危機感を抱いているとみられるのが、民放各局だ。若者のテレビ離れでゴールデンタイムでさえ視聴率低迷が続いており、NHKに団塊世代の新しい顧客をかなり奪われた形になっているからだ。

   この10月の番組改編で、TBSでは、水曜日のゴールデンタイムなどに3時間ほどもドキュメンタリー・報道番組を連発することにした。午後9時から関口宏さん司会の「水曜ノンフィクション」、同10時から「久米宏のテレビってヤツは!?」を新設。同11時からの「ニュース23」にまでつなげる。土曜日の午後10時にも、ビートたけしさん出演の「情報7daysニュースキャスター」がある。

   また、テレビ朝日は、月曜日の午後7時からのゴールデンタイムに、「報道発ドキュメンタリ宣言」を始める。報道局内にドキュメンタリー制作班を新設するほどの力の入れようだ。新聞各紙でも、民放の「ドキュメンタリー回帰」などと報じている。

「甘いものから急に辛いものはダメ」

   民放のゴールデンタイムと言えば、これまではバラエティ、ドラマの主戦場だった。TBS、テレ朝の2局は、そこからかなり思い切った方向に舵を切ったわけだ。

   芸能評論家の肥留間正明さんは、内外タイムスの08年10月4日付記事で、こう分析する。

「ダウンタウンをはじめとして10%を切るバラエティー番組が続出。鈍感なテレビ局も視聴者がバラエティーに、そっぽを向いていることに気づいたのだろう」

   そこで目を向けたのが、団塊世代も見られるドキュメンタリー番組らしい。しかし、いきなりNHKのお株を奪うようなことができるのだろうか。放送評論家の松尾羊一さんは、厳しい見方だ。

「民放キー局にも、昔はドキュメンタリー、教養番組を作る職人のプロデューサー、ディレクターがいました。ところが、各局は、彼らを放り出して、報道番組のローテーション勤務にしてしまったんです。確かに、外部の制作会社に頼ることはできますが、番組の見極めができるようなプロデューサーらを育てていません。視聴率を2、3回取ってダメなら、きっと止めますよ」

   ただ、ドキュメンタリーに対しては、社会的ニーズはあるという。

「秋葉原通り魔など、社会的に非常に奇妙な事件があって、今ある事実がテレビドラマなどより先行しているところがあります。そこに人々の関心が向いているのは確かですね」

   そのうえで、松尾さんはこう言う。

「昨日まで甘いものを作っていて、今日から辛いものと言っても視聴者は飛びつきません。ドキュメンタリーなら安直に作ることはできず、ものによっては1年かけなければならない場合もあるでしょう。ですから、テレビ局は、どういうコンテンツがいいのか、真剣に考えないとダメですよ」