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本当に「年金連続テロ」なのか 義憤だとすると不審点多い

   厚労省次官OBへの「連続テロ」は、内部事情に通じた者の犯行との見方が専門家から出ている。年金問題への怒りだけでは理解できない疑問点がいくつもあるからだ。「年金逆恨み」というのは、見せかけなのか。

犯人が若過ぎるなどの不審点

「元厚生次官狙い連続テロか」(朝日)
「元厚生次官宅 連続テロ」(読売)

   珍しく日本で、「テロ」という1面トップ見出しが2008年11月19日付新聞各紙に躍った。厚生労働省の元事務次官宅で相次いで殺傷事件が起きたため、この言葉を思いついたのだろう。

   殺された山口剛彦さん(66)と妻が重傷を負った吉原健二さん(76)は、在職中は「年金のプロ」だった。1984~85年には、吉原さんが年金局長、山口さんが年金課長のコンビまで組んだ。その後、吉原さんは社保庁長官を務め、山口さんは今の基礎年金制度を導入したときに厚労省次官に就任している。ところが、2007年に年金記録問題で国民の不満が高まると、2人を含め次官OBにもボーナス自主返納が求められる事態になった。

   今回の「年金テロ」説は、そんな経緯で出てきたようだ。各紙では、警察がその可能性を含めて捜査しているとも報じている。

   確かに、新聞やテレビでも、この説を支持する識者はいる。しかし、いくつか不可解な点があることから、テロという政治的な意図を疑問視する向きも多い。

 

   まず、目撃された犯人が30歳ぐらいと、年金逆恨みというには若過ぎることだ。次に、2人とも年金制度運用より制度作りに関わり、離婚の妻にも支給される制度に改善していることがある。さらに、次官OBの不在中に妻を襲っていることや、犯行声明がまだ見られないことが挙げられている。

犯人は出入り業者か官僚関係者??

   テレビ朝日系「スーパーモーニング」では08年11月19日、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんが、「年金が動機でなくて、厚生省にかかわる何かで、在職した人か、出入りしていた人の個人的恨みの可能性もある」として、年金テロには絞れないとの見方を示した。また、共同通信の同日付記事によると、ジャーナリストの大谷昭宏さんは、「義賊を装い、世間に向けて自己アピールを狙った、ゆがんだヒロイズムがうかがえる」とコメントしている。

   犯罪精神医学の小田晋帝塚山学院大学教授は、J-CASTニュースの取材に対し、やはり年金義憤説に否定的な見方を示した。

「僕は、内部事情に通じた者の犯行ではないかと思っています。ネット上で2人の住所が公開されていなかったとすると、そうでなければ住所を知り得ないからです。退官されてからかなり時間が経っていることもありますね」

   そして、小田教授は、犯人は出入り業者か官僚関係者の可能性があると指摘する。

「厚労省は、医療・福祉で国民に負担を強いる一方、業者の利益は大事にする傾向があるんです。定年後の天下り先を見つけるためでもあり、2人ともよい再就職先を見つけていますね。しかし、利害が絡むだけに、逆に恨まれる可能性も高いんですよ。そういう先に、今回の事件が起きているのだと思います」

   さらに、個人的な憎悪が強いとみる。

「これほど残酷な殺し方ですし、無関係な家族まで殺しています。犯行声明もまだありません。内部で人事上不利な扱いを受けたケースとかも考えられますね。若い男が犯人なら、父親がそういう扱いを受けて、息子が復讐したのかもしれない」

   なお、犯行声明が見られないことから、組織犯の可能性は低いという。宅配便を装うなどの手口の共通性から、単独犯か、実行犯を車などでピックアップした共犯がいるとみている。