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「出産は死の危険さえあります」 医師作成「妊娠の心得」大反響

   産婦人科医がブログに書いた「妊娠の心得11か条」が、ネット上で大反響を呼んでいる。背景には、「飛び込み出産」の例のように、リスクに無知な人が増えていることがあるらしい。どうしてこんなことになったのか。

安全・安心が当たり前と思っている人が増えている

「妊娠の心得11か条」を書いた宋美玄さん
「妊娠の心得11か条」を書いた宋美玄さん
「セックスをしたら妊娠します」
「神様から授かったら、それがどんな赤ちゃんでも、あなたの赤ちゃんです」

   こんな当たり前とも思える「妊娠の心得」。それを「11か条」にまとめたのが、岡山県の川崎医科大学附属病院で産婦人科医長をしている宋美玄さん(32)だ。宋さんがこの11か条を、自らのブログ「LUPOの地球ぶらぶら紀行」に書き、医療介護CBニュースが2008年11月17日付記事で伝えると、たちまちネット上で話題が沸騰した。

「これ読むとセックスが軽々しくなったと感じざるを得ない」
「医師不足は確かに深刻だが、現代医療を過信するなということ」

   はてなでは、500件以上ものブックマークが付き、こんなコメントが寄せられる人気のエントリーとなっている。宋さんも、ブログの18日付日記で「思った以上に反響が大きくちょっとビビッています」と明かしている。

   宋さんは11か条で、常に妊娠の可能性を考え、出産では死の危険も覚悟しなければならないと強調。生まれる子どもについても、流産したり、脳性まひになったりする可能性を知っておくべきだとする。そして、かかりつけ医を持ち、妊婦検診を受け、タバコ・酒、ダイエットを避けて、医師不足の中で出産する病院を確保する必要性を説いている。

   当然知っているべきこうした「心得」が、なぜ知られていないのか。

   まず考えられるのが医療の進歩だ。ピルなどの避妊手段が普及し、出産で命を落とすケースもかなり減っている。そして、こうした医療を過信して、妊娠・出産期間を通じて、安全・安心が当たり前と思っている人が増えていることがある。

高齢出産によるリスクも増えている

   医療過信の典型的な例が、「飛び込み出産」だ。

   奈良県で2007年8月29日、救急車で搬送中の妊婦(38)が16回も病院に受け入れ拒否されて死産したケースは、妊娠7か月にもかかわらず、かかりつけ医がいなかった。

   「飛び込み出産ですと、HIVにかかっているのか、赤ちゃんが逆子なのかという情報がなく、病院側も不安になって尻ごみしてしまいます。そうして、妊婦の方も、結果的に不利益を被ります」と宋さん。「マスコミの論調は、どんな妊婦でも命を救って当然というものです。妊婦が無責任なケースでも、救えなければ医療側が責められるというのはどうかと思いますね」

   都内では、脳内出血の妊婦(36)がたらい回しにされ死亡した事故が08年10月22日に発覚した。このケースはかかりつけ医がいた。しかし、宋さんは、病院が受け入れても助かったか分からない危険な状態であったのにもかかわらず、ニュースが搬送を断ったことだけを強調していると感じた。そこで、妊娠リスクの存在を知ってほしいと思い、「妊娠の心得11か条」を書いたという。

   とくに、晩婚化が進んでいる中では、高齢出産によるリスクも増えていると宋さんは指摘する。「なおさら、合併症の発症などリスクの高さに気をつけないといけません」

   ただ、はてななどの書き込みの一部では、リスク強調は不安を与えるだけ、ますます子どもが生みたくなくなるといった声も出ている。

   これに対し、宋さんは、「患者と医者は、立場が違うので溝があるのは当然です。だから、私たちが毎日の医療で安全に力を入れていることも知ってもらい、その溝を埋める架け橋になりたい。11か条は、そのためにまとめました」と話している。