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怒りの判事お得意の「熱い言葉」 娘に売春強要の母親を「一喝」

   刑事裁判の判決文読み上げの直後、裁判官が被告に語りかける「説諭」は、裁判官の人柄が一番よく表れる場だとされる。ところが、和歌山家裁で開かれた裁判では、初公判の場で判事が「(被害者に)すごいひどいことをしたんだろ!!」と被告を一喝。これだけでもかなり異例だが、実はこの判事、まだまだ多くの「熱い」言葉を残していた。

「おれを彼女だと思って話しできないのかよ」

   初公判で感情をあらわにしたのは、1997年任官の杉村鎮右(しずお)裁判官。中学生だった娘に売春を強要したとして児童福祉法と売春防止法違反の罪で逮捕・起訴された母(36)の初公判が2008年12月4日、和歌山家裁で開かれた。検察側の冒頭陳述によると、母親は夫(47)と共謀し、当時中学3年生の娘(15)に対して「私も、昔親に売春させられた。あんたに(売春を)やらせても何とも思わない」などとして繰り返し売春を強要。娘が売春の対価として受け取った現金は夫の銀行口座に振り込ませ、パチンコ代や生活費などに使われたという。

   杉村裁判官が激高したのは、被告人質問のやりとりをめぐってだ。弁護人から今後の生活について聞かれた被告は、

「夫と一から出直したい」

と返答。これに対して、杉村裁判官は疑問を感じたようで、

「愛人を作っていた夫に愛を感じるのか?どうやってやり直すのか?」

と問い詰めると、被告は

「感じません」

と、直前のやりとりと矛盾しているともとれる返答をした。それに対して杉村裁判官は、

「それで彼女(娘)が新しい一歩を踏み出せると思いますか?」

と諭した上で

「彼女(娘)にできることがあるでしょう。あんたたちが遊びに行っている間、(娘は)売春させられ、弟の面倒も見ていたんだよ。おれを彼女だと思って話しできないのかよ。すごいひどいことをしたんだろ!!」

と怒鳴った。さらに、娘が

「自分の人生を汚された。二度と会いたくない」

と言っていることを挙げ、

「娘の気持ちよりも、自分たち夫婦の今後しか考えていない。見通しが甘すぎる!!」

と改めて非難した。

被告人の人格に届くように言葉に魂を込める

   検察側は懲役5年、罰金10万円を求刑する一方、弁護側は「被告自身も父親から暴力を受け、売春をして生活費を稼いでいた。十分反省している」として執行猶予を求め、即日結審した。

   異例の初公判での「一喝」ぶりに、地元和歌山のメディアは12月4日夕方から夜にかけて、この裁判について大きく報じ、注目が集まった。ただ、今回の杉村裁判官の言動は、ただ「キレた」という訳ではなさそうなのだ。

   杉村裁判官は、前任地の徳島地裁では裁判員制度のPR役を努めており、06年5月、朝日新聞の司法制度改革についての連載で、自らが判決を下す時に何を心がけるかを明らかにしている。当時の記事によると、杉村裁判官は、量刑の内容を被告・被害者に納得してもらえるように努めているといい、

   「法廷では、自分の言葉で語る努力をしている」のだという。さらに、

「ありきたりの言葉は、被告人は聞き飽きている。被告人の人格に届くように言葉に魂を込める。『反省している』という言葉が本心からかどうか、自分の言葉でぶつかれば分かる。その手応えは量刑を決める際に考慮する」

とも話し、自分の「魂を込めた」言葉に対する被告の反応を、量刑にも反映させていることを明らかにしている。

   その具体例を見てみると、例えば07年6月、徳島市内で5歳の男の子を連れ回したとして未成年者誘拐の罪に問われた男性被告(27)の論告求刑公判で、被告が警察官を目指して専門学校に通っていたことが明らかになった際に、杉村裁判官は

「人の気持ちが分からないと、出来ない仕事だ」

と厳しく指摘している。この裁判では、検察側が「短絡的で自己中心的犯行」として懲役2年を求刑する一方、弁護側は「軽率な行為だが、被害者を傷つける意思はまったくなかった」として、寛大な処分を求めた。被告は法廷で涙を流し、傍聴席に対して深く頭を下げた。

   これに対する判決は、「懲役2年、保護観察付き執行猶予4年」。杉村裁判官は、

「長時間にわたり男児を連れ回し、帰りたいという男児を無視するなど、犯行態様は無責任極まりない。軽い気持ちで男児を連れ回したのかも知れないが、誰がどういう思いをするのか、自分に何が悪かったのか、人間として抜け落ちている部分を補ってほしい」

と、保護観察を付けた理由を説明した。

   今回の和歌山の裁判では、被告は法廷に泣き崩れ、犯行を後悔しているようにも見える。注目の判決は、12月25日に言い渡される見通しだ。