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仕事分け合う「ワークシェアリング」 推進論突然浮上、労組側戸惑う

   雇用環境が悪化するなか、経済界や自治体の長から「ワークシェアリングの推進を」との声が相次いでいる。この制度は「1人あたりが働く時間を減らして、雇用を複数の人で分かち合う」というもので、欧州などでは、雇用を守るために有効に機能したケースもある。突然の提案に、労組側も「定義についても難しいところがある。これから検討する段階」と、まだ対応策は固まっていない様子だ。

日本経団連会長「ワークシェアリングも選択肢」と発言

   経済3団体(日本経団連、日本商工会議所、経済同友会)が2008年1月6日開いた合同記者会見の席で、日本経団連の御手洗冨士夫会長は

「ワークシェアリングみたいな考え方もひとつの選択肢で、そういう選択をする企業があってもおかしくない」

と発言。

   会見に先立って行われたパーティーでも、御手洗氏は

「時間外労働や、所定労働時間を短くすることを検討することもあり得る」

と、同様の方向性を示した。

   地方からも、同様の声があがっている。例えば福岡県の麻生渡知事(全国知事会会長)は、1月5日の年頭記者会見で、

「多くの中小企業の経営者は、自分給料を減らすという形で従業員の雇用を守ろうと努力している。大企業も、もう少しこの点は見習うべき。社会全体としては、雇用を分け合うというワークシェアリングの考え方を強く持つべき」

と訴えた。

   「ワークシェアリング」は、厚生労働省の報告書での定義によると、

「雇用機会、労働時間、賃金の3つの要素の組み合わせを変化させることを通じて、一定の雇用量を、より多くの労働者の間で分かち合うこと」

というもの。正社員の短時間労働を認めて雇用機会を増やす「雇用創出型」と、労働者1人あたりの労働時間と賃金を減らして、限られた雇用を分け合う「緊急避難型」があるとされる。今回導入が提唱されているのは、後者の「緊急避難型」だ。

   ワークシェアリングは、欧米では1970年代から導入が進んでいるとされるが、実情はどうなのだろうか。

   「緊急避難型」の代表的な例とされるのが、ドイツの自動車メーカー、フォルクス・ワーゲン(VW)社の例だ。同社では、10万人以上いた従業員のうち3万人を整理解雇する計画を進めていたが、1993年、同社と労組は、週36時間の所定労働時間を20%減の28.8時間に抑制するという労働協約を締結。賃金は減少したものの、3万人の雇用が守られた、という経緯がある。

「是非についてコメントできる段階ではありません」

   フランスでも00年、当時は週39時間だった法定労働時間を35時間に短縮。12%を超えていた失業率は、一時は8%台にまで回復した。

   日本のケースに目を転じると、自治体などで、正規職員の時間外手当などを削減して財源をつくり、臨時職員という雇用枠を設けるケースも散見される。一方、「緊急避難型」の代表的なケースとしては、大手トラックメーカーの日野自動車の試みが有名だ。

   同社では99年、55歳以上の約300人を対象に、1日の労働時間を8時間から7時間に減らし、年収も10%カットした。いわば「賃下げ策」の一環だ。99年当時も「戦後最悪の雇用不況」だとされており、労組側も「失業するぐらいなら、賃下げもやむなし」と判断した。

   国内でワークシェアリングが本格的に議論されるのは02年以来で、今回の御手洗氏の発言も「唐突感」が否めない。日本経団連と日本労働組合総連合会(連合)は、09年1月15日に開かれる定例会合の中で、ワークシェアリングについても意見交換する予定だ。

   ただ、連合の企画局では

「現状としては、『(ワークシェアリングを)雇用対策の選択肢のひとつとして検討してもいい』という程度です。ワークシェアリングの定義についても難しいところがありますし、まだ、その是非についてコメントできる段階ではありません」

と話しており、「全てはこれから」といった様子だ。

   今後、ワークシェアリングは春闘のテーマのひとつになる可能性が高いが、その導入にあたっては、さまざま試行錯誤が行われることになりそうだ。