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「トルコ建国の父」像山中に放置 ネットで柏崎から串本町へ移設運動

   トルコ共和国から新潟県柏崎市の施設に寄贈されたトルコ建国の父・ケマル・アタチュルク初代大統領の像が横倒しにされ、山道のような所に放置されている。こんな状況は「友好国トルコに対する非礼であり裏切り行為だ」とネットで騒ぎになっている。この状態を重く見た日本のトルコ大使館は、トルコと縁が深い和歌山県串本町への移設を求めているが、像がある土地をめぐって訴訟が起きるなどして、実現はなかなか難しい状況だ。

青いビニールシートを被せられ横倒し

ネット上にはアタチュルク像についてのまとめサイトも登場している
ネット上にはアタチュルク像についてのまとめサイトも登場している

   「トルコから寄贈され、野ざらしになっている『友好の銅像』をなんとかしたい」。ネットでそんな呼びかけが活発になったのは2009年2月に入ってから。アタチュルクの像が青いビニールシートにくるまれ、横倒しで山道のような所に放置されている写真も出回った。もともとこの銅像は、96年にテーマパーク「柏崎トルコ文化村」オープンを祝い、トルコから寄贈されたものだった。

   銅像が「野ざらし」になった経緯は、「トルコ文化村」の業績が悪化し、運営会社は破綻。02年に市が買い取ったが、新潟県中越地震の影響で05年に閉園となった。市は06年7月、上越市のプラスチック製品製造会社「ウェステックエナジー」に「トルコ文化村」(約5万2千平方メートル)を1億4千万円で譲渡。譲渡に当たっては「トルコとの友好関係に十分配慮するとともに、アタチュルク像の今後の取り扱いは十分、市と協議する」と明記された。同社は施設を改修して結婚式場をオープン。像はそのまま展示したのだが、07年7月16日に新潟県中越沖地震があり、「像が傾いてしまい倒壊する恐れ」があるとの理由で、像を台座から外した。当初は野ざらしで放置。現在はブルーシートをかぶせている。

   実は像を台座から外して間もなく、産経新聞などが「親日国の英雄への『冷遇』に、友好団体や市民からは『非礼だ』との声が上がっている」などと報じ、像の扱いを非難する記事を掲載。この問題は広く知られるようになった。しかし、産経新聞07年9月30日付けによると、

   「(ウェステックエナジーの)飛田尚芳社長は『いつまでもトルコのことを言われるのは正直、迷惑な話。市が移転するなど至急対処してほしい』と市長あてに通告書を突きつけたが、会田洋市長は『想定外。市の物ではないので、市が補修したり買い取ることはない』との対応に終始している」などのやり取りがあったと書いている。それが1年半経った現在も解決されていない。

銅像も含め「トルコ文化村」一括売却した

   そもそもなぜ、トルコから寄贈された像まで柏崎市は民間会社に売却したのか。柏崎市役所観光交流課はJ-CASTニュースの取材に対し、

「先方から土地や建物、構築物を含め結婚式場に活用したい、という申し出があったため、銅像も含め一括売却した」

と経緯を説明、銅像の扱いに非難が出ていることについては、

「既に市の持ち物ではなくなっていますので、何かをするということはできなくなっています」

としている。また、J-CASTニュースがウェステックエナジーに取材を申し込むと、「現在は訴訟中のため、何も答えることは出来ない」という返答だった。

   その訴訟は、同社が市から買い取った土地の中に民有地があり、民有地の地権者が同社に対し「賃料を払っていない」などの理由で提訴。同社は、「市から賃借権設定の情報開示がなかった」と市を提訴。市も「受けて立つ」と表明、訴訟合戦の様相になっているからだ。

   ネットでは、一刻も早く銅像を元の形に戻そうという声が強まっていて、今回の騒動のまとめサイトも登場。トルコとの縁が深い和歌山県串本町に移設するための「募金」の呼び掛けも始まっている。

   明治23年に大島樫野崎の沖合でトルコ軍艦「エルトゥールル号」が嵐で遭難した際、串本町の住民が不眠不休で生存者の救助、介護をした。遭難で殉職者は587人も出たが、生存者69人は日本の軍艦でトルコに送り届けた。日本全国から多くの義金、物資が寄せられたこともトルコ本国に伝わり、日本への親近感を高めるきっかけになった。現在でも親日家が多いのはこのせいだといわれている。串本町では現在もトルコ共和国との共催で5年ごとに慰霊の大祭を催しているため、銅像の移設に適した土地だという判断だ。

トルコ大使館から「串本町に移設していただけないか」という要請

   串本町役場にJ-CASTニュースが取材すると、09年2月16日頃からメールや電話で「アタチュルク像を助けて欲しい」といった要望が多数届くようになっているという。中には移設のための募金、並びに資金提供を申し出る人もいるという。そして、日本のトルコ大使館から直接、移設の要請もきているという。実は、07年末にトルコ大使館から、費用は全て大使館が負担する用意があるので、「移設していただけないか」という要請があったのだという。

   同町役場は、

「喜んで受け入れます、と言うことで町議会は全会一致。決定しています。ただし、柏崎市の旧『トルコ村』を巡る訴訟の行方がわからず、未だに動けない状況なんです」

と打ち明け、この訴訟の行方を今は見守るしかない、としている。