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新型インフル防止対策 強制力なくて大丈夫なのか

   新型インフルエンザの国内上陸が懸念されるなか、政府は「上陸後」に向けて対策を進めている。具体的には事前に政府が定めた「対策行動計画」に沿ったもので、計画には、外出自粛や、企業に対して不要不急の業務の縮小などを求める内容が含まれている。だだ、これらの対応は「協力・要請ベース」なのが実情。識者からは、社会防衛の面から、対策の心許なさを指摘する声が上がっている。

対策はあくまで「お願い・要請」ベース

   政府は2009年5月1日、首相官邸で新型インフルエンザ対策本部(本部長・麻生首相)の第2回目の会合を開き、新型インフルエンザに対する基本的な対処方針を決定した。対処方針では、WHOなどとの国際的な連携を重視したり、検疫・入国審査などの「水際作戦」を強化することを打ち出しているのだが、国内で患者が発生した際の対応についても言及されている。

   これは、鳥インフルエンザなどを受けて09年2月に改訂された「新型インフルエンザ行動計画」と呼ばれるものに基づいたもの。「行動計画」では、「海外発生期」「国内発生早期」「感染拡大期」など5つの段階に分けて、行うべき対策を定めている。

   今回官邸が打ち出した対策には、「国内発生早期」の段階の対策として挙がっている事柄が列挙されている。具体的には、(1)不要不急の外出自粛の要請(2)時差出勤や自転車・徒歩等による通勤の要請(3)集会、スポーツ大会等の開催自粛の要請(4)必要に応じ、学校・保育施設等の臨時休業の要請(5)事業者に対し不要不急の事業の縮小の要請といった、感染拡大を抑えるためのものだ。

   だが、これらの対策は、あくまでも「お願い・要請」ベース。法的な強制力はない。厚生労働省の結核感染症課によると、この「行動計画」の法的根拠になっているのは、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)。第7章は「新型インフルエンザ等感染症」という項目なのだが、条文を見ると、例えば感染の疑いがある人については、都道府県の知事は「当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる」(第44条の3)とある。「行動計画」を実際に実行に移すのは政府でも市町村でもなく、都道府県のミッションなのだが、出来るのは「協力を求めること」なのだ。

かつては行政が隔離や交通遮断をすることができた

   この感染症法、1897年施行の「伝染病予防法」が人権への配慮などの面で「時代遅れ」だとされたことを受けて、99年に施行されたものだ。

   元厚生官僚の浅野史郎・慶應義塾大学総合政策学部教授は、現在の感染症法を

「現在の法律は民主的な面が強く、様々な措置が『お願いベース』。国民みんなが協力してくれることを前提にしている」

とした上で、かつての「伝染病予防法」については

「行政が『隔離』『交通遮断』といった強制的な手段を取れるようになっていました。もっとも、1970年の入省時には、すでに『今の時代に合わない法律だ』と言われていましたし、自分の在職中には、強制的な手段が発動されたことはありませんでしたが…」

と、法律の性格が大きく変化したことを指摘する。さらに、かつて1980年までには日本でも行われていた天然痘の強制予防接種を念頭に、

「感染症の場合は、バーッと広がってしまうケースなど、極端なケースを想定しないといけない場合も出てきます。そう考えた時に、『自分が感染しないためにはどうすれば良いか』ということだけではなく、『みんなを守るためにはどうすればいいか』という『社会防衛』の観点から考えることも必要。市民の良識的な判断に期待をするのはもちろんなのですが、それだけで大丈夫なのかな?という気はします」

と、現状の「お願いベース」の規定に疑問符を投げかけていた。