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アキバで世界最大「マンガ祭り」 税金はハードよりもソフトに使え
インタビュー「若者を棄てない政治」第10回/ピクシブ社長・片桐孝憲さん

   マンガやアニメの殿堂として麻生内閣が構想した、いわゆる「国立マンガ博物館」。海外に向けたサブカルの発信基地にという名目だが、117億円という巨額の予算を投じることやアニメと縁が薄いお台場を建設予定地としていることに非難が集まった。「そんなところに金を使うよりも、オタクの聖地・秋葉原で世界最大のマンガ祭りをやったほういい」。会員100万人のイラスト・コミュニティサイト「ピクシブ(pixiv)」を運営するピクシブの社長・片桐孝憲さん(27歳)は、ハードよりもソフトに投資することを提案する。

日本にはもともと、絵を描く文化が広くあった

「ピクシブの価値は、絵をお互いに見せ合って共有すること。一人で絵を描いていたら絶対に生まれないような作品が、次々とピクシブから生まれている」という片桐孝憲さん
「ピクシブの価値は、絵をお互いに見せ合って共有すること。一人で絵を描いていたら絶対に生まれないような作品が、次々とピクシブから生まれている」という片桐孝憲さん

――ピクシブというのはどんなサイトですか?

片桐 ピクシブはイラストを軸にコミュニケーションしようというサイトで、2007年9月にスタートしました。絵を描くのが好きな人たちがイラストを投稿して、そのイラストを閲覧者が評価したり、ブックマークしたり、コメントしたりすることによって、イラストを軸にしたコミュニケーションをしていくサイトです。会員数は約110万人で、月間8億4000万ページビューのアクセスがあります。

――ピクシブにはどんな人が集まっているんでしょうか?

片桐 特に多いのは、20代の大学生や専門学校生、ウェブのデザイン会社で働いているような人たち。次に多いのが10代後半です。絵を描くのって時間もかかるし、年をとるにつれて描かなくなる傾向があるので、20代前半ぐらいを頂点にしてだんだん人数が減っていく感じですね。

   性別でいうと、登録ユーザーは男性のほうが少し多いんだけど、絵を投稿するアクティブなユーザーは女性のほうが多い。なかには水墨画を投稿してくるおばあちゃんや、お母さんに投稿してもらっている小学生の子もいる。

――かなり裾野が広いんですね。

片桐 圧倒的に広いですね。コアのユーザーはコミケに出展するような人たちですけど、投稿してくるのは、絵を描き始めたばかりの人からプロの画家まで、相当幅が広い。日本にはもともと、そういう絵を描く文化が広くあったということですね。

日本ほど「イラスト人口」が多い国はない

――なぜピクシブに100万人もの人が集まるのでしょうか?

片桐 それまで絵を発表する手段といえば、アナログで友達に見せるか、自分のホームページを作るぐらいしかなかったんですけど、ピクシブという一つの場所にただ絵をアップするだけで、たくさんの人に見てもらえる。その手軽さが受けたのかな、と。

   あと、ピクシブの特徴は「イラストを軸にしたコミュニケーション」なんですけど、テキスト(文章)だけのコミュニケーションに飽きてきたというのもあるのかなと思います。ミクシィ(mixi)の日記みたいなのとは違う、もっとリッチなコミュニケーションに向かう動きがあって、それにピクシブがうまくマッチしたというか。

――ここが、ピクシブの新しいところなんですね。

片桐 そうです。ピクシブは、人じゃなくてイラストベースでつながっていく。たとえば、「猫」というタグでいろんな作品がつながって、そこからまた新しい作品が生まれたりする。ピクシブではユーザー発の企画がいっぱいあって、「ファンタジーものの絵を描こう」とか「魔女の絵を描こう」といった企画がたくさん生まれているんですよ。

――こういう企画にたくさんのユーザーが投稿しているのをみると、日本人の「絵を描くパワー」ってすごいなと感じます。

片桐 すごく絵がうまい人だったら台湾とか韓国とかにもいるんですけど、これだけたくさんのイラストを描く人口がいるのは、日本以外にない。層が厚いんですね。コミケに50万人もの人が来るのもそうですけど、そもそも国が豊かじゃないと、趣味に対してあそこまで本気になれないじゃないですか(笑)。

ミラノ・サローネのような祭りをアキバで!

――ピクシブは日本だからこそ生まれたサイトともいえそうですが、海外展開も視野に入れているそうですね。

片桐 いまでもユーザーの7%は海外の人なんですが、もっとたくさんピクシブを使ってもらいたい。手応えは十分あります。国際化のためのカギは「無言語化」。ユーザーが言語を使わずに、アイコンだけでいろんな操作ができるようにして、国際化をしていきたいと思っています。

――日本のカルチャーの国際化といえば、いわゆる「国立マンガ博物館」も世界への発信を目的としているようですが?

片桐 それよりも僕は、アキバ(秋葉原)の街全体でマンガやアニメのお祭りをやったらいいんじゃないかと思いますよ。イタリアのミラノでは「サローネ」という世界的に有名な家具の見本市が開かれて、30万人ぐらい人が集まるんですけど、そのマンガ版みたいなものをアキバでやったら面白いんじゃないか、と。

   ミラノ・サローネは街全体がお祭りになって、海外の企業の人たちがいっぱい集まってくる。日本でも、アキバみたいにマンガやアニメのカルチャーがある街で「世界最大のマンガの見本市」をやって、海外から人を呼び寄せたらいいんじゃないかと思うんですけど。

――日本のマンガやアニメには海外の人を呼びこむだけのパワーがあると?

片桐 ひきつける力は十分あると思いますね。ガンダムとかのビッグネームはもちろんですけど、それだけではなくて、ピクシブやコミケに出ているような多様性をもった作家やコンテンツがいっぱい集まることで、すごいパワーが生まれるんじゃないか、と。これからは一人の巨匠がひっぱっていく時代じゃなくて、1人1人にフィットするような多様性をもったコンテンツ群のほうが面白いんじゃないかと思うんですよね。

※インタビュー第11回は、エンピツむすめ代表の小松亜子さんの予定です。


片桐 孝憲さん プロフィール
かたぎり たかのり 1982年、静岡県生まれ。大学を中退した後、2005年にウェブ制作会社を設立。システムなどの受託開発を行いながら、自社のウェブサービスを展開。07年9月にリリースしたイラスト・コミュニティサイト「ピクシブ(pixiv)」が大ヒット。08年11月に社名をピクシブに変更した。社員犬チョビや社員のエンジニアたちと寝起きをともにしながら「ネット漬け」の日々を送る。