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巧妙な「隠れ天下り」発覚 嘱託で入り年収1千万円

   高齢・障害者雇用支援機構など厚生労働省所管の独立行政法人が、中央官庁OBを嘱託職員として受け入れ、年収1千万円近くの報酬を支払っていることが明らかになった。役員と違って情報公開義務などの天下り規制には引っかからないことから、「天下り隠し」との批判がでた。長妻昭厚労相は「年内の廃止」を表明したが、元官僚からは「ピンポイントで叩くだけではなくならない」という声もあがる。

   「隠れ天下り」が判明したのは、「高齢・障害者雇用支援機構」「雇用・能力開発機構」「労働政策研究・研修機構」の3法人。参事や参与などの肩書きがついた計6つのポストに、厚労省や財務省、総務省のOBが短期契約の嘱託職員として雇用されている。報酬は年収800万~1200万円で、部長か課長なみの扱いだ。役員クラス(約1300万~1700万円)には劣るものの、独立行政法人の嘱託職員の相場(300万~400万円程度)からすれば、かなり高い。

情報公開や人件費抑制の規制対象にならない不思議

   問題は、役員に近い報酬をもらう地位でありながら、情報公開義務や人件費抑制などの法的規制の対象とならないことだ。高齢・障害者雇用支援機構の広報担当者は

「3人の参事には、コンプライアンス推進計画の立案や内部監査実施計画の策定などの重要な業務を担当してもらっている。専門的な観点から助言・指導を行ってもらっているので、部長級の処遇をしている」

と説明するが、同機構が公開している組織図には「参事」の文字は見られない。報酬についても、理事や監事などの役員は年収が公開されているが、参事の場合は非公開とされている。そのような点から、マスコミからは「天下り隠し」の批判が出た。

   政府の対応はすばやかった。3法人を所管する長妻昭厚労相は、この問題が報道された2009年11月17日、3法人の6ポストについて「年内に廃止する」と発言したのだ。しかし、元厚労省キャリアで『天下りの研究』『公務員大崩落』などの著書がある中野雅至・兵庫県立大学大学院准教授は「世論に迎合してピンポイントで叩いても、天下り問題の解決にはつながらない」と話す。

「役員にすると公表義務などの制約があるので、そこを抜けるために嘱託職員という形にしたのだろう。『天下り隠し』という指摘はあたっていると思う。天下りは創意工夫の世界。人事上なんとかさばいていかないといけないので、いろいろ工夫しながら天下りだと分からないようにしている。公務員の人事制度をパッケージで改革しない限り、抜け道は発生せざるをえないだろう」

「倒産の危険がないところで、不合理な人事が行われるのは自然」

   同様の指摘は、別の元官僚からも出ている。元公務員制度改革事務局企画官の原英史氏は11月18日に放送されたテレビ朝日の情報番組「スーパーモーニング」のなかで、

「役員並みの待遇をするポストを役員ではない形でつくるというのは、そう珍しくないと思いますよ」

と語り、さまざまな形で「天下り隠し」が行われている実態を示唆した。

   天下りというと、役所が民間企業に退職者を押しつけるというイメージもあるが、中野准教授によれば、「天下り先として最も多いのは非営利法人」だという。特殊法人・認可法人・独立行政法人・公益法人(財団・社団)が全体の半数近くを占めている。そのような実態を著書『公務員大崩落』で指摘しながら、中野准教授は次のように書く。

「天下り役人の生活を支えるために無数の非営利法人があって、そこに税金が流れ込んでいることが問題になっているのです」

   今回明るみになった「天下り隠し」は、非営利法人の一つである独立行政法人で行われていた。独立行政法人という「役人の受け皿」がある以上、似たような事例はあとをたたないのかもしれない。中野准教授は

「行き先がある限り、人事を担当する役人たちはいろいろ考える。民間企業でも、子会社への役員の押しつけといった『天下り』はあるのだから、独法のような倒産の危険がないところで、不合理な人事が行われるのはむしろ自然ともいえる。単純な締め付けとは違うやり方をしないと、天下りはなくならないだろう」

と話している。