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「大工」を志望する学生たち 東大や京大、早慶が殺到

   大工になりたいという大卒者が集まる建設会社が注目を集めている。大工を育てるという会社の方針もあって、希望者は年々増加傾向だ。2011年採用にもすでに約400人がエントリー、高学歴の学生も多いそうだ。

   その会社は「平成建設」といい、1989年平成時代の突入とともに設立された。代表の秋元久雄さんは元ゼネコンの営業マンだったが、父親も祖父も大工の棟梁で、幼少時には仕事の魅力を随分と聞かされた。建設会社を起業したのも「一流の大工を社内で育てたい」という思いがあったからだ。

お客の顔を知らないで建築していいのか、と考えた

   この発想は業界内では異色だったらしい。というのも、一般的な建設会社は、「家を建てたい」という依頼があると、「基礎会社」「足場会社」「型枠会社」「鉄筋会社」「大工会社」などに個別に仕事を外注するのがふつうだ。建設会社は営業や施工管理を行い、現場の仕事は下請けに回している。建設会社が大工を雇うことはあまりない。会社で雇って一から教えるよりも、外部の熟練者に任せた方がコストもかからないこともある。

   ところが、秋元さんはこの仕組みに疑問を感じていた。現場はお客の顔を知らないで建築し、客の細かな要望もつたわりにくいのではないか。そう考えた。また、大工そのものの減少も気になっていた。そこで、建設会社としての営業や施工管理に加え、設計や現場の仕事、事後管理も自社で一貫して行うことにしたのだ。さらに不動産部門も置き、マンションの賃貸なども手がけているという。こうした手法が功を奏したのか、平成建設は創業以来、順調に業績を伸ばしており、2009年10月期決算でも売上高103億円(前年は96億円)と好調を維持している。

「目標が明確、意欲的な人が多い」

   一方、全国で大卒の新卒採用を2000年にはじめたが、大工志望者の学生が続々と集まってきている。中には東大や京大、早稲田や慶應などの学生もいる。2011年の採用では、大工で25人程度の採用を考えているが、就職サイト「リクナビ」を通じて現段階で400人以上がエントリーしているという。このうち、説明会・1次面接を予約したのは250人。

「大工志望者はここ数年、増加しています。大工になりたいという人は大学時代、建築や設計をすでに学んでいて目標が明確、意欲的な人が多い」

   総務部の安田武さんはこう話す。代表の秋元さんは著書「高学歴大工集団」の中で、大工志望者を「若い人たちは今まで、自分から『大工の弟子にしてください』と自分から願い出ることはなかった。『ぜひ来てください!』と両手を広げて受け入れる会社が、どこにもなかったからです」と言っている。大工になりたかった人は潜在的に、多かったのかもしれない。

   安田さんによると、新入社員は職種に関わらず入社後の1年間、現場での仕事が課せられている。「これは建設の過程を知ることと、肉体労働を通じて結束力を育てていくが狙いです」。また、大工志望者の場合は、最初に賃貸マンション、次に住宅、そして数寄屋建築と順を踏みながら、兄弟子に仕事を教わって憶えていく。「学歴なんて全く関係ありません。それだけに、教える側も教わる側も切磋琢磨しながら、緊張感を持って取り組んでいます」