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外務省や金融庁が先行してオープン化できた理由
記者クラブ問題座談会(中)

   政権交代をきっかけにして、大臣の記者会見の風景が様変わりした。新聞やテレビの記者に混じって、フリーやネットの記者が質問できるようになったのだ。政治主導でこじ開けられた風穴はさらに大きく広がろうとしているが、このような変化はなぜ実現したのか。

それまでとは違う多様な質問が出るようになった

亀井静香金融相の「第2会見」は大臣室で開かれている<
亀井静香金融相の「第2会見」は大臣室で開かれている

A   首相会見はまだオープン化が実現していないが、いくつかの省庁では大臣会見が開放された。まず動きがあったのは、外務省だね。


B   外務省では岡田克也外相が9月18日、記者クラブ以外にも記者会見を開放すると表明した。クラブからは反発があったが、「原理主義者」とも呼ばれる岡田外相らしく自らの意志を貫いて、9月29日にオープン化を実施した。


C   オープン化された会見は、どんな様子だったの?


B   参加した報道関係者は約80人で、会見場は満席になった。そのうちフリーやネットの記者・カメラマンは約20人。従来から参加資格があった外国特派員協会の記者たちも「今日は開放のお祝いだ」と言って、たくさん来ていた。


A   ニコニコ動画のクルーも来ていて、会見をネット中継していたね。


C   記者クラブの記者と外部の記者で、質問の仕方に違いはあった?


B   オープン化初日ということで、外部の記者の質問はオープン化に関するものが多かった。だがフリージャーナリストの中には日米外交について鋭い質問をする者もいて、それに対する岡田外相の回答が朝日新聞の記事になっていた。


A   つまり記者クラブの記者も、外部記者の質問の価値をある程度は認めているというわけだ。


B   その後の会見でも、フリーやネットの記者が質問した内容を、新聞や通信社が記事にするという現象が起きている。もちろん、その逆のパターンも多いわけだが。


C   記者会見の開放によって、それまでとは違う多様な質問が出るようになったという効果もあるのではないか。


B   外務省の職員に聞いたら、「新聞や通信社の記者はどうしても今起きていることに関する近視眼的ともいえる質問が多くなりがちだが、クラブ以外の記者はもっと長いスパンに立った質問をする傾向がある」と話していた。


C   ところで、なぜ外務省は他の省庁にさきがけて会見をオープン化できたのか。


B   一つは、岡田外相が就任前から記者会見のオープン化に強い意欲をもっていたことがある。もう一つは、外務省では首相官邸や他の省庁と違って、会見の「主催権」が記者クラブでなく、省のほうにあったというのが大きい。


A   役所の会見は記者クラブの幹事をつとめる記者が進行役をつとめることが多いが、外務省では報道課の職員が前に出て仕切っている。それは省の主催だからというわけだね。

亀井金融相の奇策「もうひとつの会見」

C   外務省に続いて大臣会見をオープン化したのは、確か金融庁だったね。


B   金融庁の場合はなんといっても、亀井静香という突破力のある政治家が大臣だったのが大きい。亀井金融相はジャーナリストの上杉隆さんの要請もあって、就任後まもなく、会見のオープン化を記者クラブに提案した。


A   しかし記者クラブの答えは「ノー」だったね。金融庁の会見はクラブ主催なので、その同意がなければ会見をオープンにできない。普通の大臣ならここであきらめてしまうところだ。


B   ところがなんと亀井金融相は、記者クラブ向けの会見の直後に、クラブ以外の記者のための「もうひとつの会見」を開くようにした。


C   まさかの奇策だった。これには我々も「その手があったか」と驚いた。


A   クラブ向けの「第1会見」は会見室で開かれているが、「第2会見」のほうは大臣室で行われているんだよね。


B   第2会見に出席する記者は毎回20人~30人。フリーやネットのほか、雑誌や業界紙、海外紙と多様なメディアが参加していて、質問もバラエティーに富んでいる。


C   雰囲気はどんな感じなんだろう?


B   第1会見の様子は庁舎内のテレビで見ることができるが、第1と第2ではだいぶ雰囲気が違う。第1会見では亀井金融相はピリピリしていて喧嘩腰だが、第2会見はリラックスムードで冗談もよく出る。クリスマスの12月25日の会見では、ネット中継向けに「投げキッス」まで飛び出した。


A   第2会見は大臣室でソファーに座って話すから、場所の違いというのも影響しているのかもしれないね。


B   「権力側のペースで会見が進められている」という指摘もあるが、大臣の本音が出やすいというメリットもないわけではないと思う。第1会見と第2会見はどちらも金融庁のサイトで発言が公開されているので、どちらが優れているかは、実際に読んで比較してもらうといいだろう。


C   記者会見の発言録といえば、第2会見のほうは質問した記者の社名と氏名が掲載されている。


B   これはフリージャーナリストの岩上安身さんの提案によるものだ。会見する大臣は顔と名前をさらして答えているのだから、質問する記者も名前を出して責任の所在をはっきりさせるべきだ、という考え方にもとづいている。


A   第2会見のほうはニコニコ動画がネット中継しているから、その時点で名前が外に出てしまうんだけどね。


B   一応ルールでは、もしどうしても名前を知られたくない場合には、名前を隠して質問することも認められている。だが金融庁の職員によると「名前を出したくない」と言った記者はいままでに一人もいないそうだ。


C   会見録に記者の名前を出すルールは、外務省でも取り入れたそうだね。


B   ただ、記者クラブの中には、自分の名前が会見録で公開されたり、ネット中継でそのまま流れてしまうことに抵抗感があった記者もいたらしい。


C   それはなぜ?


B   個人名が出るとネットで誹謗中傷されるのではないかという漠然とした恐怖心があったようだ。同様の意見は他の記者クラブでも聞いたことがある。


C   やっぱり大手マスコミの記者はネットに不信感をもっているのかな。

参加できても質問できない「奇妙なルール」

A   外務省、金融庁とオープン化が進んだが、他の省庁の動きはどうなっているのか。


B   あまり話題になっていないが、法務省でも大臣会見がオープン化されている。記者クラブの説明によれば、従来からオープン化されていたが、外務省や金融庁の動きを受けて、改めて外部にも開放することを確認したということだ。


A   そのほかでは、環境省と総務省でオープン化に向けた動きが進んでいる。


B   環境省は小沢鋭仁大臣が9月に会見オープン化を記者クラブに提案しているが、まだ実現にいたっていない。対照的に、総務省は紆余曲折があったものの、2010年1月から大臣会見をオープン化することになった。


C   それまでは記者クラブ以外はオブザーバー参加ということで、会見に出席できても質問ができなかった。これは総務省だけでなく、他の省庁のほとんどで実施されている「奇妙なルール」だ。


B   12月になって実際に会見に行ってみると「記者として参加しているのに質問できない」という不合理さが身にしみた。そこで会見終了の合図があった瞬間に手をあげて「問題提起」をしてみた。


A   「質問できないので、問題提起をさせていただきます」と言って、記者クラブ向け以外の「もうひとつの会見」を開いたらどうかと提案したわけだね。


C   周りの反応はどうだった?


B   ピーンと緊張感が走ったが、特に制止されることはなかった。原口一博総務相も最初は驚いたようだったが、きちんと受け止めて「会見をもっとオープンなものにしたい」という自分の意見を述べてくれたよ。


A   「インターネット中継も大歓迎」と言ったそうだね。総務省は情報通信政策を司る役所なので当然ともいえるが、映像配信という点で競合するテレビ局の中には不満をもっている社もあるようだ。


B   会見が終わったあと、ある新聞社の記者から「良かったじゃないですか」と言われた。その記者は「自分はオープン化に賛成だが、反対している社もあるのでなかなか前へ進まない」と話していた。


A   そんなこともあったが、結局、総務省の記者クラブは2010年1月から大臣会見のオープン化を決めた。参加できるだけでなく、質問もできるようになった。


C   総務省も大臣からの提案がきっかけとなっているが、記者クラブが内部で協議して自ら開放することを決めたのは、外務省や金融庁と違う。総務省のクラブは、正会員だけで30社もある。幹事社に話を聞いたが、意見をまとめるのに相当苦労したらしい。保守的といわれる記者クラブが主体的に開放した点は評価してもいいのではないか。