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「番組見なければ就職させない」 NHK経営委員「トンデモ」提言

   ストレス発散のバラエティ番組はダメ、若者にはまじめな番組を見てもらうよう法律を作ればいい――。NHK執行部を監督する経営委員の1人が、委員会の会議でこんな発言をして波紋が広がっている。関係者からも「変わった意見だ」との声が出ているが、なぜこんな人が出てきたのか。

   「変わった意見」が出てきたのは、2010年1月12、13日にあったNHKの経営委員会だった。

委員「まじめな番組を見てもらう法律作ればいい」

経営委員の発言が波紋
経営委員の発言が波紋

   NHKの今井義典副会長が国際放送事業について説明すると、安田喜憲委員が発言を求めた。

   安田委員は現在、中曽根康弘元首相らの尽力で京都にできた国際日本文化研究センターの教授。NHK経営委員には、09年3月1日付で任命されている。

   NHKサイトで10年1月29日から公開中の議事録によると、環境考古学が専門の安田委員は、発掘調査で行ったカンボジアで、若者向けの少し砕けたNHKのバラエティ番組が放送されているのを見た。しかし、カンボジアの人々は、日本はまじめな国と尊敬しており、そこにこんな番組が流れると非常に違和感を持ったという。

   そして、予算や事業計画の説明に入ると、安田委員は、日本の若者は、授業中に寝るなどなっていないとしたうえで、次のような発言をした。

「私は、今の若者に徴兵制はだめとしても、徴農制とか、徴林制とか漁村に行けとか、そういう法律で、テレビの番組も何時から何時まできちんと見るということにすればいいと思います」

   さらに、日本を大変なところに行かせないために、「この番組を見なければ会社に就職させないとか、抜本的に政策を変えないと」とまで訴えた。安田委員は、こうした面でNHKの役割は非常に大きいとして、就職や受験に役立つ番組などを提案した。テレビでストレスを発散するなどは言語道断だとしている。

   ほかの委員からは賛同する意見はあまりなく、ストレス発散になる良質な番組も必要などと指摘があり、今井副会長は「バランスについては、これからも考えながら進めてまいりたい」などと答弁していた。

「国政選挙の機会に国民が選べばいい」

   安田喜憲委員の発言は、ネット上で話題になり、2ちゃんねるでもスレッドがいくつか立っている。

   その書き込みでは、「いや そのりくつは おかしい」「何処の全体主義国家だよ」「何を言ってるのかわからない」などと理解しがたいという声が多い。一方で、2ちゃんまとめブログに付いたはてなブックマークを見ると、好意的なコメントも見られる。「法律云々はともかくとして、それぐらい若者が興味をもつような番組を作れって意味じゃないのかと」「この危機感は良し。そして番組作りの態度としてこういう人が居ても良い」「一人が言ってるだけだから、そこまで騒ぐ事でもないと思うけどなー」といったものだ。

   放送法第16条によると、NHK経営委員は、公共の福祉について公正な判断ができ、広い経験と知識を持つ人から選ばれるとある。教育、文化、科学、産業などの各分野および全国各地方が公平に代表されるという。選任については、国民の代表である衆参両議院の同意を得て、総理大臣が任命する。

   安田委員の発言について、元NHK政治部記者の川崎泰資さんは、こう指摘する。

「これまでに聞かない変わったタイプですね。もちろん、どんなことを考えるかは、個人の自由です。ただ、時の内閣に、選んだ人に対する責任があります」

   委員選任には、政権政党の考え方や好みが如実に反映されるという。

「NHKを所管する総務省の役人であれば、発言にバランスを欠く人は選ばないでしょう。経営委員は、各分野や全国・地方の枠ごとに政治家らからの推薦者から選ばれます。過去には、表向きは大学の先生でありながら、特定政党の支部長だった委員がいたことがあるんですよ」

   安田委員が選任された当時は、麻生太郎内閣だったため、川崎さんは、麻生政権の考え方が反映されているのではないかとみる。ただ、こうした選任方法には異論があると言う。

「衆参の同意といっても、恣意的に選ばれる可能性があります。バランスを欠く人が選ばれるとすれば、与党ばかりでなくそれを通した野党も問題ですよ。私は、経営委員を国政選挙の機会に国民が選べばいいと思っています。そうすれば、国民の代表として、恥ずかしくない人がなります。そうでないから、NHKの経営がとんでもなく乱れたりするんですよ」