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クロマグロ「浮かれ報道は危ない」 途上国に「借り」、そのツケは

   カタールのドーハで開催中のワシントン条約締約国会議で大西洋産(地中海産含む)のクロマグロ禁輸案が第1委員会で否決された。事前の票読みで劣勢を伝えられた日本など「禁輸反対派」が予想以上の大差で勝利するという意外な結末になった。

   自公政権時代から、国際的な存在感の薄さが目立つ日本にとって、久々の国際外交上のヒットになった。ただ、途上国と目先の利害が一致した結果で、むしろ今後の日本外交には重いツケが回ってくる可能性もある。

日本の「裏工作」の成功持ち上げる記事続々

   マスコミの報道は、日米関係のギクシャクなどこれまでの欲求不満が国民の間にもたまっていた反動なのか、浮かれた調子が目立つ。事前の「クロマグロ禁輸包囲網」(朝日3月5日付)など敗色濃厚のムードが、2010年3月18日の第1委員会での禁輸案否決を受け、トーンは一転。「マグロの国 危機回避」(同19日付)など、赤松広隆農相の笑顔の写真入りで報じた。「水面下で支持拡大」(読売19日付)、「日本 情報戦勝利」(毎日20日付)など、日本の「裏工作」の成功を持ち上げる続報にも大きな紙面を割いた。

   確かに、今回の会議に限れば、日本の外交はうまくいった。モナコ案の禁輸賛成はわずか20票、日本など反対が68票、棄権が30票という圧勝の裏には日本の周到な根回しがあった。農水省は10年2月ごろから、水産庁OBら6人を政府顧問としてアフリカなど途上国を中心に派遣して多数派工作を展開。会議が佳境にさしかかる20日にも禁輸派の米国が大型代表団を送り込み、多数派工作を始めるとの情報をキャッチし、日本は、「一気呵成にやっちゃえ」(赤松農相)と、巻き返しを受ける前に勝負に出た。

   21日とみられた採決を早め、18日に即刻採決する動議を出したのはリビア。日本が前面に出ない作戦の中、「阿吽の呼吸」での登場だった。この動議が可決され、引き続いて欧州連合(EU)とモナコの2つの禁輸案がいずれも否決された。モナコ案に反対した68カ国にはアフリカ諸国が目立つ一方、賛成票はEU加盟国数を下回り、少なからぬ欧州諸国が棄権に回ったことをうかがわせた。米国の多数派工作、さらに環境NGOなどのロビー活動で欧州が結束し、旧植民地のアフリカ諸国を取り込んで禁輸案可決――これまでの国際会議でよく見られる流れができる前の「不意打ち採決」が成功したわけだ。

中国が「影の主役」として大きな役割を果たす

   途上国には漁業国、マグロ輸出国も多く、マグロ禁輸の直接的な打撃はもちろん、将来的に他の漁業資源にも禁輸などの動きが広がることへの警戒感も広がったという。また、中国もフカヒレ(サメ)の乱獲規制への警戒感など日本と利害が一致。経済援助などで急速に関係を深めるアフリカ諸国などに対し、「積極的にクロマグロ禁輸反対で動いてくれた」(農水省幹部)。

   だが、今回のマグロをめぐる構図は、地球温暖化対策を話し合った2009年末の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15、ブリュッセル)の時とねじれたものだった。COP15では、温室効果ガスの排出抑制に積極的な日本や欧州などと中国・途上国が対立したが、今回、日本は途上国と手を組んで欧州の主張を葬った。「アフリカに対する中国の影響力の大きさというものは今回もまざまざと見た」(小澤鋭仁環境相)というように、中国が「影の主役」として大きな役割を果たしたのは、COP15とまったく同じで、日本の立ち位置だけが違っていた。

   今回の結果が見せつけたのは、環境などに敏感な米欧と、経済的実利重視の途上国などの対立ともいえる。COP15で温室効果ガス削減に向け積極的に動いた日本は、皮肉にも今回のささやかな勝利で、温暖化など地球規模の課題では対立する途上国に「借り」を作った形だ。「そのツケが今後、どう回ってくるか、頭が痛い」(環境省筋)との声も聞こえる。