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携帯基地局巡り各地で紛争 鎌倉市は「設置条例」施行

   携帯電話の基地局建設を巡り、健康不安を訴える住民と事業者の間でトラブルが後を絶たない。そんな中、神奈川県鎌倉市は携帯事業者に対し、基地局を建てる場合に計画書を提出し、事前に住民に説明することを定めた条例を制定・施行した。全国の自治体から問い合わせが相次いでおり、今後こうした規制が広がりそうだ。

   鎌倉市は電磁波による健康不安や景観を巡って住民と事業者の間で紛争が起きているため、「鎌倉市携帯電話等中継基地局の設置等に関する条例」を制定し、2010年4月1日に施行した。事業者が事前に基地局の設置について説明し、紛争を未然に防ぐことが目的だ。

専用条例は鎌倉市と篠栗町だけ

   鎌倉市は基地局を新しく設置する場合と既存の基地局を改造する場合に、工事に着手する日の60日前までに計画書を市長に提出することを義務づけた。提出後、基地局の高さの2倍の半径内に土地を所有する近接住民に、計画の概要を説明して理解を得るよう努めなければならない。また、近接住民に学校、児童福祉施設などの意向を尊重するよう定めた。

   条例制定のきっかけになったのは市民団体「携帯基地局の電磁波を考える鎌倉の会」が08年に市議会に提出し、採択された陳情だった。市まちづくり政策課の担当者は、「住民が訴える健康被害と電磁波の因果関係がわかっていないため、条例で健康被害については触れていないが、市民団体には評価してもらっているようだ」と言っている。

   福岡県篠栗町も「篠栗町携帯電話中継基地局の設置に関する条例」を07年から施行している。高さが15メートルを超える場合に限り、事業者は事前に計画書を出し、住民に周知するよう定めている。町役場建設課の担当者は、「施行前はどのような基地局ができるのか、不安だといった問い合わせがあったが、施行後はなくなった」と話している。

   鎌倉市まちづくり政策課の担当者によると、携帯基地局の設置について住環境や建築関連の条例に盛り込まれたケースは他の自治体であったが、単独での条例は鎌倉市と篠栗町だけだ。

健康に悪影響という証拠は見つかっていない

   基地局から放射される電磁波が人体に与える影響について、これまでもたびたび議論になり、全国各地で紛争が起きている。

   宮崎県延岡市大貫町の住民は、携帯電話基地局からの電波で頭痛など健康被害を受けているとしてKDDIに対し操業停止を求める訴えを09年12月16日に宮崎地裁延岡支部に起こした。06年秋にマンションの屋上にアンテナを建てた直後から、住民が頭痛や耳鳴りなどを訴え始めたという。10年3月3日に第1回口頭弁論が行われ、KDDI側は基地局の電波により健康被害を受けているという事実は否認すると述べ、全面的に争う姿勢を示した。

   那覇市内のマンション屋上に設置された携帯電話の基地局をめぐり、健康不安を訴えた住人が携帯電話会社に場所提供の契約を更新しない旨を申し入れ、携帯電話会社が応じていたと10年2月27日付け「沖縄タイムス」が報じた。このマンションに住んでいた医師が居住する約40世帯から聞き取り調査したところ、半数の世帯で鼻血や頭痛などの体調変化がみられたという。一方、携帯電話会社は「健康被害は確認されていない。契約満了に伴い終了した」としている。

   基地局から放射される電波は「電波防護指針」で基準値が決まっている。国際的なガイドラインと同じ値で、総務省は「基準値を満たない電波が健康に悪影響を及ぼすという証拠は見つかっていない」としている。また世界保健機関(WHO)と協力し、1997年から10年間にわたり脳や神経、血液などに及ぼす影響を調べたが、「いずれも認められない」と結論づけた。

   電磁波情報を発信する財団法人電気安全環境研究所電磁界情報センターもホームページで、「携帯電話の基地局の近くに長く住んでいると健康に悪い影響が出てくるのか」との質問に、「WHOによれば、これまで集められた研究結果を考慮すれば基地局からの弱い無線周波が健康悪影響を生じるという科学的根拠はない」と答えている。

全国の自治体から問い合わせ

   一方、鎌倉市が施行した条例の反響は全国に広がっている。まちづくり政策課の担当者は、

「全国の自治体から問い合わせが結構、来ています」

と明かし、規制は全国的に広がる気配だ。

   NTTドコモ広報担当者は、「従来通り国の法令と地域の条例を遵守し、住民の要望については誠意を持って対応していく」としている。

   KDDIによると基地局を巡り住民が同社を訴えたケースは4件あるが、訴えにより計画を変更したことはないそうだ。広報担当者は、

「住民に説明会を開いたり、反対している住民には個別に訪問するなどして説明する努力をしています。条例が全国的に広がろうと対応を変えることはありません」

と話している。

   ソフトバンクモバイルは携帯電話やスマートフォン向けの通信環境を改善するため、基地局の数を現在の2倍にするなど決めた「電波改善宣言」を10年3月28日に公表したばかりだ。広報担当者は「住民に安全性について説明し、理解を求めていきたい」と言っている。