J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

遺伝子組換えで「美味しんぼ」に訂正要求 食品安全の啓発団体とバトル

   人気漫画「美味しんぼ」が遺伝子組換え作物などの不安をあおったとして、食品安全の啓発団体から訂正を求められる騒ぎがあった。「美味しんぼ」側は、科学的根拠があり、訂正しないとしており、議論は、平行線のままになっている。

   訂正要求があったのは、週刊ビッグコミックスピリッツの2010年5月24日号に載った「続・食と環境問題その(8)」の回だ。

唐木英明東大名誉教授らの啓発団体が要求

ホームページで訂正要求を公開
ホームページで訂正要求を公開

   そこでは、遺伝子組換え作物や農薬が、何らかの形で人間にも影響すると紹介した。例えば、ジャガイモについては、英ロウエット研究所が1998年に動物実験を元に臓器への影響などを示したとした。害虫は殺す毒性を持つが、人には害がないとされるタイプでもだ。また、同様なタイプのトウモロコシは、間違って食用にされた結果、アメリカで44人が呼吸困難などのアレルギー症状を引き起こしたと紹介。日本にも飼料として輸入されており、人への影響の可能性も指摘している。

   さらに、農薬の除草剤は、動物実験で互いにかみ合うほど攻撃性を与え、脳に影響があるかもしれないとした。いずれも、インタビューした識者の実名を挙げている。

   一方で、立場が違う識者の意見も紹介。「多くの人が、遺伝子組換えのことを良く知らずに、怖がっている」という大学名誉教授の話も載せている。

   これに対し、「食品安全情報ネットワーク」が、開設したばかりのホームページ上で、小学館のビッグコミックスピリッツ編集長に訂正要求などの文書を提出したことを明らかにした。この啓発団体は、内閣府食品安全委員としてBSE問題にも関わった唐木英明東大名誉教授が、代表者になっている。

   それによると、遺伝子組換えジャガイモについては、毒性のある成分を意図的に組み込んだため、消化不良がそもそも想定されていたという。そのうえで、こうした商品はなく、臓器への影響などは一般的な結論にはならないとしている。

「科学的根拠はあり、訂正しない」

   トウモロコシについては、米食品医薬品局などが追跡調査をした結果、アレルギー症状の原因ではなかったと指摘した。また、除草剤の動物実験は、かなりの多量を用いたもので、内閣府食品安全委員会では、残留許容範囲の100分の1という厳格な安全基準を設けているとした。

   そのうえで、「食品安全情報ネットワーク」は、漫画の紹介は、科学的な根拠がなく、遺伝子組換え作物などの危険への不安をいたずらにあおるものだと批判している。立場の違う識者も紹介したことについても、科学的決着がついていることで、両論併記というのはおかしいとした。意図的に経過を隠して引用したとし、「あるある大事典」のテレビ局不祥事と同様な問題だとすら言っている。

   代表者の唐木英明東大名誉教授は、取材に応じ、2010年7月7日夕にこの問題でビッグコミックスピリッツ編集長と話し合ったことを明らかにした。

   それによると、編集長側は、少数意見であっても科学的根拠があり、両論併記もしたとして、訂正はしないと話したという。

「先方は、科学ばかりでなく、遺伝子組換えはいやだという感情も大切だとの立場で、越えがたい意見の違いを理解しました。この溝を埋めるのは大変だと考えていますが、言論の自由があるので、出版差し止めまでは求めません。反対論があるのを知ってもらうのが大事ですので、目的はある程度達成したと考えています」

   一方、ビッグコミックスピリッツ編集部では、取材に対し、科学的根拠がないとは考えていないとコメントした。話し合いの結果、「認識の相違があることを相互に確認し、今回、ご指摘を受けた作品については、特に訂正などはしないということで合意に達しました」という。

   さらに、「不安を訴える人たちが実在することを、その逆の立場の人たちと共に『両論併記』の形で描いた」と主張。識者インタビューに基づいており、発言を捏造した「あるある大事典」と同様というのは、まったくの誤りだとした。この点は話し合いでも強く主張し、唐木名誉教授側も「行き過ぎた表現」であったことを認めたとしている。