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アニメソングがランク上位独占 音楽業界の救世主たりうるのか 
「ポニーキャニオン」桐畑敏春社長に聞く「音楽業界の未来」/創刊4周年記念インタビュー 第5回

   大人気アニメ「けいおん!」シリーズは特別な存在だ。DVDなどソフトが大ヒットしただけでなく、声優が歌うさまざまな曲がランキングの上位を独占、音楽業界に衝撃を与えた。この人気は継続するのか。業界の救世主になるのか。ポニーキャニオンの桐畑敏春社長に聞いた。

――TBS系で放送された「けいおん!」、続編「けいおん!!」ともにオープニング曲とエンディング曲のCDセールスがそれぞれ20万枚、ネットの有料版ではそれぞれ50万ダウンロードとすごいヒットになりました。

海外での人気をどうセールスにつなげていくか

ポニーキャニオン桐畑敏春社長
ポニーキャニオン桐畑敏春社長
桐畑 アニメに関して言えば「けいおん!」から続編「けいおん!!」になり、ますます人気が高くなっている感じですね。実は、アニメの2期(続編)については、1期同様に人気となるのかどうか不安だったんです。1期の放送で当時の原作にあるストーリーは殆ど使われてしまい、2期はアニメオリジナルのストーリーを加えて制作することになったからです。ところがふたを開けたらこの人気で、ホッとしています。楽曲も歌唱も素晴らしかったという以外にないのではないか、と思います。

――「けいおん!」では声優さんが歌ったキャラクターソングも大ヒット。DVDとBDで発売された「けいおん! ライブイベント~レッツゴー!~」も記録的な売れ行きです。

桐畑 ライブイベントですが、私も撮影が行われた横浜アリーナに行きました。前の方の座席で観ていたのですが、凄かったですね、ファンの方々の熱気。でも、ここまで売れるとは。日本のアニメソングのライブはアメリカ、ヨーロッパ、アジアなど海外でも相当な人気で、これをどうセールスにつなげていくか、それが音楽業界の今後の課題なのではないでしょうか

――こうしたアニソン人気が音楽業界に変化をもたらす?

桐畑 「けいおん!」は特別なのです。非常にヒットした代表といえます。実は、アニメ楽曲が業界の中で凄く伸びているかというと、そうでもないのです。アニメソングの売り上げはずっと前年並みで推移しているんです。
   ランキングの上位に来て驚いている人も多いのですが、アニメの場合はコアなファンの方が多いですから、CDを発売した後の動きは凄く速く、一気にチャートを駆け上ります。ただし、1年間トータルで見ると、他のアーティスト作品と比較して必ずしも上位に位置しているわけではない。こうした現象はアイドル作品にも似ていますよね。ですので、レコード会社の中にはアニメソング事業を縮小する会社もあります。

アニメソングの売れ方はアイドル作品に似ている

――なかなか厳しい時代が続きそうですね。

桐畑 ただ、「けいおん!」を通じてわかったことがあって、アニメが成功し、CDでヒットを生み出すパターンと、アーティストが成功するパターンは似ているような気がします。CD販売が厳しい時代と言われますが、当社としては新しいアーティストを自分の力で見つけ育てていかなければ、打開策は見つからないと考えています。
   音楽業界では、09年、08年と、世代交代の時期と言われてきたのですが、現在売れているのは10年程前から活躍しているアーティストがほとんどです。新顔が出てきてケータイ配信などでヒットしても、なかなか次に繋がらない。楽曲の触りのメロディーだけでお客様に買ってもらうので、アーティストとして評価された、というのとは違っているからです。だから、当社としてはライブハウスなどでじっくりと力を付けてもらい、育てていこうと。時間と手間はかかりますが、そうしなければ3年、5年と売れ続けることは難しい。

劇場版「ワンピース」DVDは40万枚いく

――ポニーキャニオンはアニメのDVD、BDのセールスも手がけています。

桐畑 当社が本格的にアニメの製作出資に参入して8年経ちます。「AIR」「CLANNAD」「家庭教師ヒットマンREBORN!」などのヒット作もありますが、苦戦した作品も非常に多く、死屍累々といった時期もありました。ネットの時代に入ってから、より売れるものと売れないものとに、メリハリが付いていてしまうようになりました。当社はテレビドラマや映画も扱っていますが、売れないサイクルに捕まってしまうと本当に辛いですよね。
   ただ、8年やってきて、いろいろ勉強させてもらって、ようやく力が付いてきたかなという実感はあります。アニメ関連の事業は今後も強化していくつもりです。

――人気アニメ「ワンピース」劇場版の発売も8月27日に迫ってきました。

桐畑 これから発売を予定している注目作品は「ワンピースフィルム ストロングワールド」と、テレビアニメ「戦国BASARA弐」です。「ワンピース」は劇場公開で凄い人気でしたのでDVD50万枚以上のセールスを目標としていますし、「戦国BASARA弐」も前評判が非常に高いため期待しています。アニメファンは映像のクオリティーを非常に重視されます。背景に出てくる看板の文字が誤字なのでは、といった細かな点まで意見が寄せられます。
   クレームかと思って対応すると「良かったです!」という激励だったりします。そういったお客様にきちんと対応するため、「ワンピース」の発売に合わせ、問い合わせ電話等に対応する専用の「カスタマー窓口」を設置する予定です。

【プロフィール】
桐畑敏春(きりはた・としはる)
ポニーキャニオン社長。1946年滋賀県出身。立命館大学経済学部を卒業後、70年にポニー(現ポニーキャニオン)入社。主に営業畑を歩み、96年に取締役営業本部長、常務取締役経営管理本部長を経て05年6月に社長就任。