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「途中で『そうかもしれない』と思ってしまう魔術のような怖さ」 無罪村木元局長が検察取り調べを語っていた

   障害者団体向け郵便割引制度をめぐる偽の証明書発行事件で、大阪地裁は2010年9月10日、厚生労働省元局長の村木厚子被告(54)に対して無罪判決(求刑: 1年6月)を言い渡した。公判では、検察側が提出した調書の大半を裁判所が証拠採用しなかったことから、無罪の公算が高いとみられていた。村木元局長は判決を前に、各メディアの取材に応じ、保釈されるまでの164日間に及ぶ逮捕・勾留生活について心境を語っていた。

   事件は、自称障害者団体「凛の会」が、障害者団体向けの割引制度を適用を不正に受けるための偽の証明書発行に、村木元局長が関与したとされるもの。

「私の仕事は、あなたの供述を変えさせることです」

   大阪地検は村木元局長や同会の元会長ら4人を有印公文書作成・同行使罪で09年7月に起訴した。だが、捜査段階で「村木元局長の指示を受けた」と供述していたとされる元部下は、公判になって「検察官の作文、全部でっち上げです」などと証言。裁判所は供述調書の大半を採用せず、検察側は事実上立証の柱を失っていた。

   村木元局長は、判決前の段階で、文芸春秋、朝日新聞、毎日放送(MBS)などのインタビューに応じており、その中で164日間の様子を克明に明らかにしている。朝日新聞のウェブサイトには、インタビュー動画も掲載されている。各社のインタビューの中では、逮捕の唐突さと、自らが描いたストーリーに供述内容を無理に当てはめようとする取り調べの様子について、特に詳しく説明されている。

   「文春」によると、かつての部下が逮捕され、元上司が取り調べを受け、自らにもメディアからの取材攻勢が及んでいた時も、検察から村木元局長にはコンタクトがなく、「本当に気持ち悪いというか、奇妙な感じ」だったという。逮捕された時の様子を、村木元局長は

「短い時間の取り調べで、『記憶がない、やってない』ということをお話したら逮捕されたという感じ。非常に不思議な感じがしました」(MBS)

と振り返っている。

   検察の取り調べについては、事前にストーリーを決めつけて取り調べに臨む様子を、

「『私の仕事は、あなたの供述を変えさせることです』と(検事に)言われたので、その時に初めて『結論を決めちゃってるんだ』という風に感じられました。その中で、今度は『裁判になると長くなるから、認める気にはなりませんか?』『執行猶予が付けば、大したことないんじゃないですか?』と言われた。それはちょっと愕然としました」(MBS)

「調書の作成というのは、検事さんとの交渉なんですね」

「途中で『そうかもしれない』と思い、自信を持って否定できなくなる。『魔術』にかけられそうな怖さがありました」(朝日)

などと説明。「調書の作成というのは、検事さんとの交渉なんですね」(文春)とも表現している。供述調書の下書きには、自らが供述した内容と異なることが書かれていることも多く、「1ページ目のここは、私が言ったのはそういう意味ではなくて…」(同)といったやりとりが繰り返されたという。

   ただ、「無理筋」の捜査で自らを164日の勾留生活に追い込んだ検察に対しては、

「無罪判決が出たら、控訴していつまでも争うのではなく、検察自身にどうしてこうなったのか検証して欲しいんです」

と要望するものの、

「検察は社会にとって大事な組織です」(文春)

とも指摘する。

   会見では、「無実であることの証しとして、もう1回『いたはずの場所』に立ちたいという気持ちがある」と述べていた村木元局長だが、長妻昭厚生労働相は、9月10日、検察が控訴しなかった場合は、村木元局長を復職させる意向を明らかにしている。