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尖閣諸島「希少モグラ」の現地調査 学者の要望、なぜ日本政府は認めない

   沖縄県・尖閣諸島最大の魚釣島で確認されているモグラの一種で、絶滅の危機にある「センカクモグラ」を保護しようと、「センカクモグラを守る会」が発足した。アルピニスト野口健さん(37)らが発起人だ。背景には、現地での学術調査を求める学者らの要望を政府が認めようとしない、という現状があるようだ。なぜ調査許可は下りないのだろうか。

   「(尖閣諸島に)領土問題がないというなら、現地調査はできるはずだ」。2010年10月7日、「守る会」の発足会見をした野口さんはこう政府を「挑発」した。近く、同会としても政府へ現地調査の許可を求める要請をしたい、とも述べた。学者らが過去に要請した調査許可が認められていないことを念頭に置いた発言だ。

絶滅危惧種に指定された「センカクモグラ」

センカクモグラの剥製標本(提供:横畑泰志・富山大准教授)
センカクモグラの剥製標本(提供:横畑泰志・富山大准教授)

   魚釣島固有種のセンカクモグラは、環境省の絶滅危惧種に指定されている。「守る会」発起人のひとり、富山大の横畑泰志准教授(49歳、動物生態学)によると、歯の数が少ないのが特徴で、日本の普通のモグラが42本(44本のものも)なのに対し、38本しかない。ほかにも約20の特徴があり、学名は「モゲラウチダイ」という。学名に含まれる「ウチダ」は人名で、センカクモグラ(和名)を発見・論文化した3人の研究者が「お世話になった人」なのだそうだ。

   1979年に魚釣島で研究者が発見し、捕まえようとしたところ死んでしまったメス(体長約13センチ)の剥製1体があるだけで、詳しい生息数などは分かっていない。もっとも、

   「例えば本州にモグラがどれだけいるのか、も分かりませんが」(横畑准教授)。

   絶滅の危機にあるのは、同島に棲みついた野生化したヤギのせいだ。ヤギは1978年ごろ、日本の民間団体が持ち込んだ。日本人の尖閣諸島への関与を示すことなどの目的があったようだ。このヤギが繁殖した結果生態系が崩れ、森林面積が減っていることが、航空写真などで確認されている。落ち葉の激減などで土壌中の有機物が減少し、センカクモグラのエサとなるミミズが減っているのだ。

   同島には、センカクモグラだけでなく、センカクサワガニやセンカクオトギリなどの固有の動植物が「少なくとも11種」ある。「守る会」では、センカクモグラだけでなく、これらの動植物も守りたい、としている。

   横畑准教授によると、こうした危機感は以前から学者の間では共有されていた。2002年から03年にかけ、日本生態学会や日本哺乳類学会など3学会が連名で、外務省や環境省、沖縄県などへ「魚釣島のヤギの駆除」と「魚釣島への学術上陸調査の許可」を要請した。特に調査の許可に力点を置いたそうだ。

中国や台湾を上陸調査で刺激したくない

   しかし、各省などの担当者からは当時、「調査の大切さは理解できるが、中国や台湾がナーバスになっており、上陸調査で刺激しては……」という趣旨の回答が口頭で返ってきたという。明確な「不許可」ではなかったが、以来「たなざらし」の状態が続いている。結局、1991年ごろに九州大などが行った上陸調査以降、20年近く現地調査は行われていないことになる。

   なぜ調査許可は下りないのだろうか。環境省野生生物課によると、3学会の要請については、当時の担当者が「調査の必要性は分かるが、国際情勢などを考えると難しい」という趣旨の回答をしたようだ、という。また、当時の判断は「今も変わっていないと考えて頂いて結構です」。もっとも、調査のための上陸許可は、環境省が直接出すものではないようだ。

   そこで、内閣官房の尖閣諸島問題担当にきいてみた。魚釣島は、個人の所有で2002年から政府が借り上げている。「平穏かつ安定的な維持管理をすることが目的」だそうだ。借り上げ以前から、所有者は多くの上陸許可要請を断っていたともいい、「所有者の意向と政府借り上げの目的から総合的に判断し、原則的に上陸は認めていない」としている。

   仮に学術調査目的の上陸要請があった場合、環境省なり文部科学省なりがその調査の重要性を判断した上で、内閣官房に許可要請をしてくる流れになる。担当の省を経ずに直接、内閣官房へ調査許可要請をされても困る、ということのようだ。

   横畑准教授は、「(センカクモグラなどは)人類共通の財産なので、これらを守るため、大所高所からの判断を頂き、現地調査を認めてもらえればありがたい」と話している。また、多くの人に関心をもってもらい、今後行う予定の講演や署名などに協力してほしい、とも期待していた。