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「CT検査でがんになる」 「放射線」専門家が衝撃レポート

   「衝撃レポート CT検査でがんになる」。こんな見出しの文藝春秋(2010年11月号)記事が注目を集めている。筆者は慶応大学医学部の近藤誠講師だ。指摘が本当なら、CT検査は避けるべきなのか。

   慶応大学のサイトによると、近藤氏は同大医学部で「放射線科学(治療)」を担当する専任講師だ。

「1回のCT撮影で被ばくする線量でも、発がん死亡の危険性生じる」

文藝春秋の「衝撃レポート」
文藝春秋の「衝撃レポート」

   CT検査は、X線を360度方向からあて、検出結果をコンピュータ計算し、人体を輪切り映像として可視化する。CT検査による被ばく線量は、X線撮影より「200倍~300倍(多い)とする論文が多い」(近藤氏)。

   近藤氏は記事で、「現在は、1回のCT撮影で被ばくする線量でも、発がん死亡の危険性が生じると考えられています」と述べている。「推定」として、45歳の1万人が全身CTを1回受けると「8人が発がん死亡」(0.08%)し、以降30年間毎年同検査を受けると、「190人」(1.9%)が「被ばくにより発がん死亡するとされます」。

   こうした流れを受け、「欧米の専門家は、低線量被ばくに発がん性があることを前提に、患者保護のために活発に動いて」いるが、日本では「今日に至るまで、患者保護の動きは緩慢です」「低減努力は奏功せず、国民被ばく線量はかえって増えています」と指摘している。さらに、「まずCT」「何でもCT」という状態が「蔓延」していると懸念を示し、患者には「自身の防護主任となって、不要な検査を避けるしかない」と勧めている。

   「CT検査蔓延」の背景として、外来が余りに混んでいるため医者が患者の話を聞く時間的余裕がなく、「先に検査を受けさせてデータ一式を揃えたい気持ちになってしまう」ことや、「CT検査をすればするほど、病医院が経済的に潤う医療構造」などを挙げている。

   近藤氏はさらに、「発がんリスクという不利益」があるがん検診が正当化されるには、がん検診が寿命を延ばすことが証明されなくてはならないが、「どの臓器のがん検診も、この証明が不存在で、中には寿命短縮が証明された検診すらある」とも訴えている。

「リスクは極めて低い」と否定する声も

   確かに近藤氏が指摘するように、「肺がん検診を受けると寿命が短くなる」というチェコスロバキア(当時)や米国での調査結果などがあるそうだ。週刊現代(10年7月17・24日合併号)で、新潟大学医学部教授(予防医療学)の岡田正彦氏が指摘している。調査対象となった検診での検査は、CTよりも被ばく線量が少ない胸部レントゲン撮影だ。

   こうした認識は、近藤氏以外の国内の医師にも広がりつつあるようだ。東京都内のある60代の会社経営者は数年前、かかりつけの呼吸器専門医からこう言われたことがあるという。「肺に小さな影があります。継続的にCT検査をし続け、肺がんの早期発見につながる可能性と、検査による被ばくの影響でかえってがんになってしまう危険性とを比べると、CT検査を続けた方が良いのかどうか一概には言えません」。さらに、CT検査による被ばくの危険性については、「まだ表立って議論されていませんが、いずれ大きな問題になってくるでしょう」とも話したそうだ。

   一方、独立行政法人「放射線医学総合研究所」の赤羽恵一・重粒子医科学センター医療放射線防護研究室長は、近藤氏の指摘をこう否定した。

「論争が多い論文を定説のように引用するなど、誤解を与える表現が多々ある」「極めて低いリスクをむやみに怖がるより、検査の必要性を判定した上で、必要なCT検査は受けた方がメリットが大きい」

   赤羽氏の指摘の要点は次のようなものだ。(1)近藤氏指摘の「検査1回の線量」の10倍の線量を超えると発がんリスク上昇が確認されているが、下回る線量の場合、リスクがあるかないかはっきりしていない。それでも安全確保上「ある」と仮定して防護基準を決めており、リスクは「ゼロではない」という程度の低いものだ。(2)そもそも、放射線の影響を受けなくても30%以上の人ががんになり(生涯がん死亡リスク男性26%など)、食生活やタバコの影響が大きいとされている。こうした「リスク」と、CT検査などの「リスク」を比べる必要がある。(3)CT検査の「リスク」はゼロではないとしても、早期発見で治療を受けることができることや、異常がないと分かり安心できる、というメリットとを比較して判断すべだ。

   もっとも、近藤氏が指摘するように、必要性が低い検査が安易に行われている実態も少なからずあり、「不必要な検査はしない、受けないという姿勢が大切だ、という点は賛同できる」とも話していた。