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電子書籍化で印税はどうなる 講談社「15%」に安すぎの声

   本を出版したときに作家や漫画家といった著者に支払われる印税。いま、講談社が著者に対して送った「デジタル的利用許諾契約書」が物議をかもしている。そこには電子書籍を出版する際の印税率を「15%」に設定し、しかも著作物の利用を制限する条項が盛り込まれていて、著者の権利を著しく侵害しているとの指摘も出ている。

   2009年来、アマゾンの「Kindle(キンドル)」やアップルの「iPad」の発売で、電子書籍はにわかに注目を集めている。「出版月報 10月号」で「電子書籍大特集」を組んだ出版科学研究所は、今後はコミックから、いわゆる文庫本の領域へと著作物が広がっていくとみている。

印刷や製本などの工程がないので印税上げられる?

   講談社は著作物のデジタル化にあたり、作家や漫画家などと印税の支払いなどの契約を見直していて、著者に対して「デジタル的利用許諾契約書」を送った。

   その内容は、印税を「15%(消費税別)」に設定するとともに、「所有権はすべて乙(講談社)に帰属する」、また「デジタルコンテンツの卸価格、販売価格、販売サイト、販売の条件・方法に関しては乙(講談社)が自主的に決定することができる」としている。

   経済学者でアルファブロガー、自ら電子書籍を出版するアゴラブックスの社長を務める池田信夫氏はこの契約書を問題視し、2010年10月24日付のブログで取り上げている。

   池田氏はブログで、「印刷や製本などの工程がなく、間接費の小さい電子書籍で、このように低い印税率を設定するのは異常である」と痛烈に批判。「15%」の印税率が日本のほとんどの電子書籍を手がける出版社と同一で、「カルテルを組んでいる疑いがある」とも指摘している。

   さらに、講談社の契約はデジタル化の権利を著者から奪うことになり、他の出版社から電子出版したいといった話があっても、著者は売れなくなるという。

アゴラは50%、キンドル30%

   また、「限界集落温泉」などの漫画家、鈴木みそ氏はツイッターで、講談社からの「契約」について、「話し合いもないのか」とつぶやいた。

   鈴木氏は、講談社から「マンガ 化学式に強くなる」(2001年6月)と「マンガ 物理に強くなる」(08年8月)を出版。「どちらも印税15%を一方的に印字して、すべての所有権は乙(講談社)に帰属する」と書いてあるという。しかも、「実際の電子書籍の発売は、まだ決まっていません」とあって、とにかく契約を結んで出版する権利を手に入れておこうという講談社の強引な姿勢に、不信感を募らせているようにうかがえる。

   著者に支払われる印税は約10%が標準と言われてきた。ただ、長引く出版不況の中で、次第に率は下降している。売れっ子作家であれば15%もあるが、駆け出しのライターなどは7、8%、中には5%以下という場合も少なくない。

   電子書籍に変わると、製本費用や取り次ぎや書店のマージンなどがなくなるので、著者への配分が増え、また販売価格も下がるとみられていた。

   池田信夫氏が社長を務めるアゴラブックスは電子書籍の場合、最大50%の印税を著者に支払う。また最近ではアマゾンの「キンドル」が30%を支払うとして話題になった。

   出版科学研究所によると、「キンドルは30%という水準がひとり歩きしています。著者に一律30%を支払うわけではなく、かなり細かな制約があって、それをクリアした著者に支払うようです」と話す。

   講談社は「現在、その件についてはコメントできないし、取材も受けられない」としている。