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ツキノワグマ「山に返さないで」 「また戻ってくる」と住民が訴え

   住宅地に迷い込んできたツキノワグマを射殺せざるを得ないケースが相次ぐなか、被害の急増に悩む岡山県の自治体が「捕獲したクマを山に放さないで」と、県に対して方針転換を求めている。だが、岡山県内のツキノワグマは「絶滅危惧種」。県側も対応に苦慮している。

今年は爆発的増加、住民は外出自粛も

   ここ数年、全国的にクマの目撃情報・捕獲数は増加傾向で、生息数が少ないとされる西日本でも例外ではない。

   例えば岡山県内のツキノワグマの目撃数の推移を見ると、延べ数で2008年度が44件、09年度が28件だったのに対して、10年度は現段階で141件。そのうちの捕獲件数でみると、08年度が4件、09年度が2件、10年度が現段階で30件(うち28件が、イノシシ用のワナなどで誤って捕獲される「錯誤捕獲」)だ。ここ1年で、爆発的に増えていることが分かる。この背景には、猛暑の影響でブナ、ミズナラ、コナラといったドングリをつける樹木の生育状況が悪かったことがあるとみられる。

   ツキノワグマが確認されるのは、美作(みまさか)市など、県北部の自治体がほとんどで、住民生活に支障がでるケースもある。同市では10年10月24日、民家近くに仕掛けてあった鳥獣用のわなに小グマが誤ってひっかかり、親とみられるクマも付近に出没。住民が一時外出の自粛を余儀なくされた。

西日本の20県では「狩猟禁止」

   ツキノワグマは、長野県や秋田県には比較的多く生息し、住宅地に出没した場合はやむなく射殺するケースもある。だが、下北半島、紀伊半島、東中国地域、西中国地域、中国山地、九州地方では、環境省のレッドデータブックで「絶滅のおそれのある地域個体群」に指定されている。岡山県内では、10頭程度しか生息していないとみられ、07年の環境省のまとめでは、西日本の20県では、条例などで狩猟が禁止されている。

   このことから、県ではクマを捕獲した場合、唐辛子スプレーをかけて「人里に近づくと怖い」ことを学ばせた上で、識別タグをつけて山に放している。

   だが、前出のようにクマの出没は急増しており、11月1日に北部の奈義町で錯誤捕獲されたクマにはタグがついていた。つまり、一度山に放したクマが戻って来てしまった形で、この様なケースは、岡山県が把握している限りでは県内では初めてだ。

   このことから、前出の美作市などの4自治体が11月8日、石井正弘知事に対して、「山に放す」といった保護を重点に置いた対策だけでなく、安全対策を求める要望書を提出した。

   県では、早急に対策を講じたい考えだが、

「『山に放すな』ということは『飼え』ということになる可能性が高い。野生動物なので、これは望ましくないのでは」

と、具体策の検討にはまだ着手できていない状況だ。