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IAEAと日本政府で異なる避難基準 飯舘村民「何を信じればいいのか」

   「政府は大丈夫といい、IAEAは避難基準の2倍だと。どちらを信じればいいのか、もう生き地獄ですよ」。福島県飯舘村の農家の60歳代女性は、取材中に「生き地獄」を3回繰り返した。

   国際原子力機関(IAEA)は、福島第1原発から約40キロ離れた飯舘村の土壌から、IAEAの避難基準の約2倍にあたる放射性物質のベクレル量を検出したとして、日本政府へ事態を注視するよう助言した。一方、2011年3月31日、枝野幸男・官房長官は会見で、IAEAの指摘を踏まえつつ、現状の避難指示地区の設定について変更する必要はないとの考えを示した。

自主避難から戻ってくる人が増えた

   飯舘村は、村の一部地域が屋内待避地区(20~30キロ圏)にかかるだけで、多くは圏外だ。しかし、国の基準の3倍以上の放射性物質が検出され、3月21日から村の簡易水道が摂取制限された。数値が下がったため、4月1日に制限解除。乳児は念のため村が配布したペットボトル飲用を、と呼びかけている。

   「(3月31日、)IAEAのニュースの後に、枝野長官の会見がテレビで流れて。それを聞いてむっとしたですよ」。飯舘村で和牛の畜産や葉タバコ栽培などを営むある専業農家の女性(62)はテレビニュースをみた感想をこう語った。連日のように「直ちに健康へ影響するものではない」と繰り返す枝野長官が、31日も「今の時点では…」と話したのをきいたからだ。

   「じゃあ、何日間今の数値の影響を受け続けたら健康被害が出るの。もう3月も終わるのに」。第1原発事故の発生は3月11日だ。31日の段階で、同村の簡易水道が摂取制限された21日から考えても10日以上経っている。女性が住む地区は、屋内待避地区より外のエリアだが不安はつきないという。

   村では一時自主避難する人が続いたが、ほどなく戻ってくる人が増えた。「(戻ってくるのは)年寄りが多いですね。若い人と違って、長くはよそで暮らせませんから」。不安なら村外に逃げればいいのに、という人もいるかもしれないが、周囲には農家も多く、「家畜もいれば、年老いた親もいる」という理由で「村外へ動きたくても動けない」人たちが多いそうだ。避難指示が出ればさすがに考えなくてはならないが、「農家は土地を離れたら暮らせない」。その一方で、幼い子どもをかかえた家族の村外脱出は続いているようだ。

「長期間における健康への影響」を心配

   IAEAによる「避難基準の2倍」見解について、内閣府の原子力安全委員会は3月31日、IAEAは土壌表面の検査結果から見解を導いた一方、日本では空気中や農作物などの数値をもとに避難指示などを検討しているので、「人体への影響については、(日本当局の方が)より正確な値」と自信を見せた。

   しかし、この農家の女性は「農家はね、土をなめるように、はいつくばるようにして働くの。1日に10時間も12時間も外にいるの。作業も10日なんかじゃ終わらない。100日は続くの」と訴えた。土壌表面の検査結果や「長期間における健康への影響」にも高い関心をもっているようだ。農作物の作付けについては、福島県から土壌調査の結果が出るまで待つように言われている。

   仮に「作付けして大丈夫」という結果が出たとしても、すでに二重張りのビニールハウスで(村内で)栽培した野菜、山菜も風評被害で買ってもらえない状況になっている。「どの数値以上が本当に危険でどの数値までなら食べても本当に大丈夫なのか、をはっきりさせて欲しいと政府に言いたい」と話した。「マスコミも、『規制値を超えた』とかそのまま書かず、食べても大丈夫なのかどうかをきちんと伝えてほしい」とも注文した。

   それでも一方で風評被害はしばらく続くのでは、と心配している。「(飼っている肉)牛は買ってもらえんかも。将来のことを考えても生き地獄ですよ」

   飯舘村役場に数回電話すると、菅野典雄村長らはいずれも会議中だった。電話に出た男性は、「IAEA助言」について、「村長はきのう、(原子力)安全委員会の説明を聞いて納得した、とテレビ取材に答えてました。今日もその状況は変わってません」と答えた。