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東大教授「日本全国どこでも危ない」 地震の場所や時期など予測は不可能

   「日本の地震研究を見直すときがきた」と提言する研究者が現れた。東京大学のロバート・ゲラー教授は、東日本大震災の発生を受けて、長年にわたる日本政府の地震予知政策に異論を唱える、衝撃的ともいえる論文を発表した。

   過去30年間、日本で大きな被害を出した地震は、政府の予測とは違った場所で起きている。そもそもいつ、どこでどの程度の規模の地震が起きるかなど予測できるはずがない――。ゲラー教授は鋭く指摘する。

30年以上起きない「東海地震」はミスリード

ゲラー教授が作成した「震災発生マップ」(ウェブサイトより)
ゲラー教授が作成した「震災発生マップ」(ウェブサイトより)

   ゲラー教授の論文は2011年4月13日、英国の権威ある科学誌「ネイチャー」電子版に掲載された。冒頭で「日本政府は、地震の発生を確実に予測することは不可能だと国民に対して認めるべきだ」「誤解を招く『東海地震』という用語の使用をやめること」「1978年に制定された大規模地震対策特別措置法の廃止」の3点を要旨に掲げている。

   文部科学省に設置されている地震調査研究推進本部は、毎年、「全国地震動予測地図」を発表している。2010年5月20日の最新版では、今後30年以内に震度6弱の地震が起こる確率が高い地域として静岡県や愛知県、紀伊半島東部から南部、四国南部が挙げられた。いわゆる東海地震、東南海地震、南海地震が起きるとされている場所にあたる。

   ゲラー教授はこの地図と、1979年以降に国内で発生した地震で10人以上の犠牲者を出した規模のものがどこで起きたかを重ね合わせた。1993年の北海道南西沖地震や95年の阪神大震災、2008年の新潟県中越沖地震など該当する地震は9件あるが、いずれも「予測地図」に示された東海、東南海、南海地震の場所から大きく外れているのが分かる。東日本大震災に関しては、宮城県の一部が地図上で高確率地域となっているものの、震度6強を観測して大きな被害を受けた岩手県や福島県、また栃木県や茨城県北部は「発生率6%以下」と低い確率に区分けされている。

   この点をゲラー教授は指摘し、「30年以上にわたって日本政府や、地震調査研究推進本部とその前身の組織は『東海地震』という用語を頻繁に用いてミスリードしてきた。マスコミは、この地震が本当に起きるもののように報じて、国民は『東海地震』の発生が時間の問題だと信じ込むようになった」と批判。巨大地震がいつどこで起こるかは、今の研究レベルでは予測することは不可能だと断言した。

東日本大震災「過去の歴史から想定できた」

   テレビ番組でもゲラー教授は、政府が「東海地震」の危険性を強調するあまり、それ以外の地域の人々は、「自分が住む場所は地震なんて起きないだろう」と思い込むのが危ないと警鐘を鳴らす。

   むしろ「日本全国どこでも、地震の危険性はある」というのが同教授の考えであり、東日本大震災は決して想定外ではなかったという。今回の震災で壊滅的な被害を受けた三陸沿岸は、歴史的にも頻繁に大規模な地震や津波が起きている点を説明。1933年の昭和三陸地震では死者が1500人以上に達したほか、1896年に発生した地震で「高さ38メートルにも及ぶ津波に襲われて2万2000人以上が亡くなった」という。さらに歴史をさかのぼって、平安時代にあたる869年の「貞観津波」についても、論文で触れている。

「地震発生の場所や時間を特定することはできないが、世界各地の地震活動と、東北での過去の記録に基づいて地震発生の危険度を予測したのであれば、3月11日の東日本大震災は『想定』できたに違いない」

と、同教授は主張する。

   東海地震に関しては、現在も気象庁が該当地域の地殻変動の様子を観測し、頻繁に結果を公表している。これは「大規模地震対策特別措置法」(大震法)に基づいているのだが、そもそも地震の予知は不可能と考える同教授は、東海地震の予測などナンセンスとして「大震法の廃止」を訴える。そのうえで、地震研究は官僚主導ではなく、物理学に基づいて日本のトップ研究者が進めていくべきだと論文を締めくくっている。