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「溶融燃料が容器つき抜けどんどん地下へ」 福島原発「チャイナシンドローム」説の真贋

   「なんとなく収束の方向なのかな」。福島第1原発の原子炉の安全性について、こんな印象をもっている人も少なくないようだ。一方、溶融した核燃料が次々に構造物を溶かし、地下へ進行中だと指摘する専門家もいる。いわゆる「チャイナシンドローム」が起きているというのだ。

   核燃料が熱で溶け落ち、圧力容器もその外側の格納容器も溶かし、さらにその下へ……。京大原子炉実験所の小出裕章助教は2011年6月16日放送の情報番組「モーニングバード!」(テレビ朝日系)で、福島第1原発の1号機についてこんな見立てを披露した。

保安院「原子炉圧力容器の下部で水によって冷却されている」

原子力安全・保安院サイトで様々な数値が公表されている。
原子力安全・保安院サイトで様々な数値が公表されている。

   小出助教はさらに、格納容器下にある「分厚いコンクリート」を核燃料が溶かしながら「どんどんめり込んでいる状態だと思っている」とも指摘した。いずれコンクリートを突き抜け、地下水を汚染するという。原子炉に冷却水をいくら入れたところで溶融燃料はもう冷やせないというわけだ。

   溶けた核燃料が土台のコンクリートを突き抜け、地下まで落ち込んでゆく、「チャイナシンドローム」という事態になっているというわけだ。もっとも、コンクリート層を突破した溶融燃料が、それから先どこまで進むかについては触れていなかった。また、汚染される地下水を近くの海などへ漏出させないため、「地下ダム」のような施設構築を急ぐ必要があると指摘した。

   一方、東京電力や経済産業省の原子力安全・保安院は、核燃料はほとんど溶け落ち、その大部分は「原子炉圧力容器の下部で水によって冷却されている」として、1号機だけでなく2、3号機も同様の状態とみている。燃料の一部は、圧力容器から格納容器へ落下している可能性も認めている。小さな穴が開いているか溶接部分が損傷していることが考えられるという。

   いずれにせよ、小出助教が指摘するような「どんどん溶かし続け地下へ」という状態は起きていないと判断している。その根拠は、注水作業が継続され、原子炉の圧力や温度が全体的にみて安定的で冷えているからだという。

   要するに、東電などは溶け落ちた燃料が圧力容器底部の水で冷やされていると考え、小出助教は、燃料は冷やされる間もなく格納容器などをどんどん溶かし続けているとみていることになる。

圧力や温度の推移をみると溶融した燃料は冷えている

   ところで、東電などが根拠にする圧力や温度を計る計器は、実は正確に動いているかどうか不明なものも少なくない。小出助教が1号機について話をしたのは、1号機建屋には人が入り、水位計を修理して判明した結果だからだ。

   2、3号機については、水位計修理はできておらず、1号機の例から同様の状態になっていると推測している形だ。ということは、小出助教の1号機に関する推測が正しければ、2、3号機でも同じ事態が起きている可能性があることになる。

   保安院によると、計器の数値は絶対値だけをみているのではなく、継続的に変動がないかなどを総合的に判断しているという。その結果、原子炉だけでなく使用済み核燃料プールも含め、「傾向として安定している」との見解を示している。

   東京都市大の原子力研究所の丹沢富雄教授に話をきいた。丹沢教授は、研究用原子炉施設の保守・管理が専門だ。丹沢教授は、汚染水処理問題は別にして、原子炉の安全という点からは「事態は一歩前進している」とみている。

   公表される圧力や温度の推移をみると、「(溶融した燃料は)冷えている」として、小出助教の「どんどん地下へ」との見方は否定した。

   一方で、政府や東電の発表する数値に関する不信感は根強い。不都合なものを隠しているのではないか、というわけだ。専門家の意見についても、「政府寄り」「反原発派」などのレッテル貼りが広がり、その説得力は暴落気味だ。

   ちなみに米原子力規制委員会のボルチャード本部長は6月15日(現地時間)の会議で、福島原発事故について「原子炉と使用済み核燃料プールは相対的に静かになってきた」との見方を示した。