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高橋洋一の民主党ウォッチ
菅首相「再生エネルギー法案」は欠陥品 電力料高くなり、企業は海外逃避

   菅直人首相が突如「再生エネルギー法案」を最優先課題としてから、エネルギー論争が盛んだ。菅首相は2011年7月13日には「原発に依存しない社会」と、緊急記者会見で「脱原発依存」宣言をした。

   もっとも、首相の記者会見にもかかわらず、海江田万里・経産相は、会見の40分前に聞いただけだとして、菅首相の話に批判的だ。菅首相も、「脱原発依存」は政府の方針でないという。個人的な思いなら、わざわざ公式の首相会見である必要はなく、記者懇談などで話せばいい。

ポイントは電力自由化

   再生エネルギー法案は、大震災前に作られた。もともと、自然エネルギー発電の電力買取りについては、自公政権の末期、麻生内閣のとき、家庭用太陽光発電の「余剰電力買取り制度」が開始されたが、今回の法案はその延長線上の話だ。「全量」か「余剰」かは不明確にされたまま、再生エネルギー法案が作られている。もちろん表向きは「全量」ということになっているが。

   再生エネルギー法案に限らず、エネルギー政策を見るときのポイントはどこまで電力自由化を進めるかだ。1990年代から「電力自由化」が争点になっていたが、実際には「なんちゃって自由化」(部分的な自由化)は進められたが(例えば、現在、六本木ヒルズ域内の電力供給事業を行う東京エネルギーサービスのような「特定電気事業者」の解禁など)、10電力会社体制見直しは出来ず、発送電の分離などの「真の自由化」はできなかった。その理由は安定的な電力供給に支障が生ずるということだった。日本では、豊富な資金をマスメディアにばらまき電力自由化に否定的なキャンペーンが行われてきた。

   しかし、発送電分離等の電力自由化が進んだ北欧で世界的な有力企業が生まれ、経済成長が著しい。電力自由化での一時的な混乱もあったが、それへの対応策も実施され、結果として電力料金低下などの電力自由化のメリットが大きいことがわかってきた。一方、日本では国際的にも高い電力料金にもかかわらず、10電力体制でも安定的な電力供給にはなっていない。

10電力会社体制見直しを

   むしろ世界の潮流は電力自由化の中で、自然エネルギーを含めた各種のエネルギーについて国や地域の実情にあわせて最適な選択が行われている。

   再生エネルギー法案は、大震災前に作られたので、原子力発電に傾斜する前提になっており、また電力自由化の発想もない。そのままでは、10電力体制は維持されつつ、買取制度によって電力料金は高くなってしまう。そうなると、日本の企業の中には海外移転をするところもでてくる。それを回避するためには、発送電を分離し、発電部門での新規参入を増やすような10電力体制を見直し電力自由化プログラム条項を入れる必要がある。

   発送電を分離するまでの間も、発電会社の新規参入を促すために、送電網の開放が必要だ。しかし、再生エネルギー法案では、電力会社は、「電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれ」があるときは、設備を送電網に接続することを拒絶できることになっている(法案5条1項2号)。これは、表向き、不安定な自然エネルギーの発電設備を接続することによる支障を防ぐ規定だが、電力会社はこれまでこれを隠れ蓑として新規参入などを阻み続けてきた。この条項を撤廃する必要もある。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。