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放射線対策に「米のとぎ汁乳酸菌」 専門家から効果に疑問の声

   東京電力福島第一原発の事故後、放射線被害から身を守るためのさまざまな「対策」がインターネット上で紹介されている。その中の1つで、最近話題になっているのが「米のとぎ汁乳酸菌」だ。

   ツイッターやブログなどでこの方法を提唱しているのは、乳酸菌の大量培養装置を手がける日本グルンバ総合研究所 所長の飯山一郎氏。発酵させた米のとぎ汁を飲むことで、培養された乳酸菌・光合成細菌・酵母が体内の放射性物質を排出するのだという。効果を報告する声も多数みかけるが、体調不良を訴える声も少なくない。

「目やにが大量に出て目が真っ赤」も「毒だし効果」?

画像検索では自家製「米のとぎ汁乳酸菌」が大量にヒットする
画像検索では自家製「米のとぎ汁乳酸菌」が大量にヒットする

   作り方の概要は、米のとぎ汁をペットボトルに入れて常温で1週間寝かし、その後、塩や黒砂糖を加えるというもの。飯山氏いわく、飲んだり吸ったりすることで肺から放射性物質が痰(たん)となって出て放射能の害が縮小化、さらにはがん細胞も減少するのだという。とぎ汁の生成物の成否は「臭い場合は捨てる、腐敗臭は大失敗、酸っぱい匂いなら大丈夫」と、各人の嗅覚に委ねられている。

   ブログでは「ノドの痛みがすっかり消えた」「便通も良くなった」「ずっと止まらなかった咳がおさまった」など効用が報告されている。中には「下痢」「赤い痰」「目やにが大量に出て目が真っ赤」などの体調不良を訴える声もあるが、その多くが「私のは失敗だったのか」と自作の液体を問題視、もしくはその症状が「毒だし」効果の現れだという見方を示している。

とぎ汁の中に細菌が繁殖する可能性

   これに対し、理学博士(細胞分子生物学)の片瀬久美子氏は、ウェブマガジン「SYNODOS」で、「低線量被爆の害を避けようとして食中毒などになってしまえば本末転倒である。食中毒は命に関わる場合があり、その危険性は低線量被爆よりもずっと高い」と指摘。また、明らかな体調不良を「好転反応」として捉える傾向も悪質な代替療法に似ていると警鐘を鳴らす。ツイッター上でも食品衛生検査・管理者と名乗る人が「微生物って色々居て、人間に有益な菌は多くいますけど、有害なものも山ほどいます」と書き、週刊誌「SPA!」でも内科医のNATROM氏が「極めて危険」と発言するなど、専門家からは疑問の声が続く。

   対して飯山氏は、「米とぎ汁の乳酸菌は,世界一強力な発酵菌群を含有しているのだ。こんなことも知らずに,(中略)騒ぐ馬鹿ども,無知を恥じろ!」と反論する。

   この方法を実践し、ブログに記しているのは「女性」で「母親」が多い。中には離乳食に自作の液体を加えている人もいるようで、ネット上では「腐った水。常識で考えれば分かる。」「頼むから子どもをモルモットにしないで・・・」「熱や下痢になってる子どもを見て、どうして病院に連れて行かないの」という声も多く挙がっている。

   日本保健物理学会の有志が運営するサイトでは、この方法が放射性物質の除去に直接的に効果があることを示した学術論文はないとし、「米のとぎ汁を1週間常温において菌を増やした場合、とぎ汁の中に乳酸菌だけでなく、雑菌が繁殖する可能性があります。それを吸引した場合の体への影響は、放射性物質が肺に付着している影響より大きくなるかもしれません」と問題点を指摘している。