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アイデアさえ良ければ稼げる 「売れっ子アプリ開発者」の内側
(連載「スマートフォン革命」第3回)

   スマートフォン(スマホ)の中でも、特に支持を集めているのが米アップルの「アイフォーン(iPhone)」だ。そこで使われるアプリは、今では50万種類以上に及び、累積で180億本を超える数がダウンロードされてきた。

   日本国内では、アプリ開発者が続々と誕生している。年齢もキャリアも関係ない世界で、自分のアイデアひとつでヒット商品を生み出そうと努力を重ねている。

広告収入「8か月で10万ドル」

アプリ開発者の20Yさん(左)と渋谷正徳さん
アプリ開発者の20Yさん(左)と渋谷正徳さん
「毛を抜くだけのアプリです」

   ゲーム「毛抜きの達人」の説明はこれしかない。スタートすると、皮膚に埋まった1本の毛のイラストが次から次へと画面に出てくる。指で画面をなぞって毛根から抜くのだが、失敗することも多い。ルールは実に単純だが意外に難しく、完璧にクリアできないと悔しくて「もう1回」となる。

   開発したのは「20Y」さんという若手開発者だ。高専卒業後に進学する予定だったが、「iPhoneアプリで稼ぐ」という記事をいくつか読むうちに「自分でもやってみよう」と、2011年4月からアプリ開発を始めた。経験1年未満だが、無料ゲームでは続々とヒットを飛ばし、ランキング1位に輝くゲームも複数持つ。説明書いらずの単純明快さと着眼点のユニークさが人気を呼び、これまでの全アプリのダウンロード数は200万を超えた。

   「iPhoneが好き」で始めた開発は、あくまでプロとしての「仕事」だ。ゲームアプリは無料だが、そこに広告が付くため、クリックされれば本人の懐も潤う。20Yさんによると、これまでの広告収入は「10万ドル(約770万円)くらい」という。8か月ほどでこれほどの収入は、大成功といえる。

   一方、実用的なアプリを作り続けているのが渋谷正徳さんだ。アプリ開発歴は約2年で、「自分が欲しいもの」をつくる。最初に手がけた支出管理のアプリも「自分のお金の管理」を目的に手がけた。脱サラした今は、アプリ開発のみで生計を立てている。

   渋谷さんの場合は、ダウンロードする際に支払いが生じる有料アプリだ。それでも、ビジネスパーソンにとって必須の連絡帳や、「次にすること」というスケジュール管理アプリが広く、長い間支持され続けている。「次にすること」は米国でも支持を集め、ビジネスアプリのカテゴリーで1位を獲得したという。

企業による「アプリ内課金」モデルが増加

AppBankの宮下泰明氏
AppBankの宮下泰明氏

   iPhoneアプリのレビューを行う「AppBank」の宮下泰明氏は、最近の傾向として、アプリ開発で事業が成り立つ会社が増えてきた点を挙げる。例えばソーシャルゲームのように、無料アプリを提供したうえでアプリ内課金をするモデルが増えたという。企業が広告宣伝費を使って無料アプリのダウンロード数を伸ばし、アプリ内でアイテム購入などの課金で収益が見込めると分かったことも手伝って、市場規模は従来の2~3倍程度は伸びているのではないかと見る。

   一方、有料アプリのダウンロード数は伸び悩んでおり、個人開発者の数も減少傾向ではないかと見る。ただし、渋谷さんのような「定番アプリ」で人気が定着した人の場合、継続的に売れているとも説明する。また広告を入れた無料アプリでも20Yさんのように成功しているケースもあり、「残るものは残る」(宮下氏)というのが実情だ。今後はさらに、「占いアプリ」のように女性ユーザーに向けた商品も重要になってくると指摘する。

   繁忙時は、早朝から夜遅くまで制作に没頭することもあるという2人だが、個人アプリ開発者としての生活のリズムは既にできているようだ。「将来的には海外も視野に入れたい」と20Yさんは意気込む。一方の渋谷さんは当初「小遣い稼ぎ程度かな」と思っていたのが、今では「これで食べていける」との手ごたえをつかんでいる様子だ。