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「社員専用アプリ」を使い 上司の決裁もスマホで受ける
(連載「スマートフォン革命」第8回/韓国スマホ事情1)

   スマートフォン(スマホ)は隣の国、韓国でも大流行だ。従来型の携帯電話からの移行が一気に進み、今ではスマホ所有者が人口の半数近くに達している。

   韓国のスマホ事情を探ると、日本とは一味違った独自性が見られる。J-CASTニュースでは韓国・ソウルに飛んで、暮らしの中で韓国の人々がスマホをどう活用しているかを追った。

走行中の地下鉄の車内でも電波が通じる

「カカオトーク」で友人とのやり取りを楽しむ李憲政さん。iPhoneの画面には「吹き出し」で互いの会話が表示される(写真下)
「カカオトーク」で友人とのやり取りを楽しむ李憲政さん。iPhoneの画面には「吹き出し」で互いの会話が表示される(写真下)

   韓国でのスマホの普及ぶりは目覚しい。記者が喫茶店や電車のホームに立つ人々を観察すると、「スマホ率」はほぼ100%だった。ソウル市内では、走行中の地下鉄内でも電波が「圏外」とはならず、車中では大勢の人がスマホの画面を見つめている。通信速度が速くて安定しており、乗客がストリーミングで動画や映画を楽しむ様子も珍しくない。父親の膝の上に乗った子が、見よう見まねでタブレット型端末をいじっている姿が印象的だった。

「今、友達にメッセージを送りました。すぐに返信がありますよ」

   ソウル在住の会社員、李憲政(イ・ホンジョン)さんはそう言うと、自身の「アイフォーン(iPhone)」の画面を見せてくれた。利用者同士がチャットを楽しむ「カカオトーク」というアプリは、韓国で大ヒットしている。自分のスマホに連絡先が登録されている人にあてて、誰にでもメッセージが送れる。電話番号を使って送るショートメッセージと違って無料だ。

   チャットは1対1が基本だが、カカオトークの場合複数人に送れるため、「仕事が終わったらみんなで食事に行こう」という誘いも簡単だ。わずか2分間で李さんと友人とは、5回ほどやり取りを交わしていた。「カカオトークは今や『必須』ですね」と笑う。

   李さんは韓国の大手商社の大宇インターナショナルに勤務している。仕事柄、自身も含めチームのメンバーや上司は国内外問わず出張が多い。そのためか、会社オリジナルの「社員専用アプリ」があるという。大宇では、社員全員にスマホを付与、既に持っている場合は補助金を出しており、勤務管理もアプリで可能にしたのだ。例えば上司が出張中に企画書を作成し、至急稟議に回して決裁が必要になったとする。「会社のシステムに書類ファイルをアップしておけば、上司が出張先からスマホで確認し、承認できる仕組みになっています」と李さんは説明する。これなら、「上司の確認がとれなくて」と得意先に返答を待たせることもなく、スピード感を持って商談を進められる。

地下鉄の路線検索やカーナビ代わりにも

若者に人気の街、新村(シンチョン)には多くのスマホショップが並ぶ
若者に人気の街、新村(シンチョン)には多くのスマホショップが並ぶ

   外出先に向かう場合は、路線検索アプリが役立つ。起動させるとソウルの地下鉄・鉄道マップが現れる。出発地と行き先は、路線図にある駅名に触れて選択する。路線が示されるだけでなく、どの号車に乗れば最も効率的に乗り換えができるかも分かるのだ。車中でもネットにつながるうえ、地図アプリのような容量が大きいものでも比較的すぐに表示されるため、移動中でもすぐ検索ができる。

   ナビゲーションとしても重宝されている。IT関連企業に勤める30代の女性は、いまやスマホがカーナビゲーションの代わりだと話す。自宅のあるソウル郊外から中心部へ車で向かう場合、常に渋滞を気にしなければならない。ナビアプリを使えば、交通情報がリアルタイムで入ってくるため所要時間の見通しがつけやすい。渋滞回避にも役立てられる。

   この女性も、カカオトークの「ヘビーユーザー」だ。常にスマホを手元に置き、素早く返事をする。「もはや習慣になっているので、苦ではありません」と笑う。ツイッターやフェイスブックは日本同様、韓国でも人気だ。前出の李さんも「スマホを持っていない人とは連絡も取れません」というほど、必須アイテム化しているのは間違いない。だが、決してスマホやネット上の交流に依存しているわけではない。むしろ気の合う人同士は以前より付き合いが深まり、空き時間があれば会って食事に出かけるケースも増えたようだ。

   韓国のITジャーナリストはスマホの浸透が社会にもたらした影響について、「コミュニケーションスタイルの変化」を挙げる。SNSなどで互いに意見を出し合う機会が増えたことで「選挙でもカギとなる役割を果たすようになり、政党はSNSの活用法を戦略に取り入れている」という。一方で、誤った情報が拡散しやすくなったというマイナス面も浮き彫りになってきた。

   スマホ利用者の急増は、アプリの拡充がタイミングよく進んだからこそだと、このジャーナリストは考える。従来型携帯電話でもインターネット接続は可能だったが、通信料が高額なうえコンテンツは貧弱で「閲覧したいと思う人は少数でした」。そこに、パソコン同様「リッチコンテンツ」を楽しめるスマホが登場し、アプリも質量ともに充実するようになった――。モバイル端末の使い道は、かつての音声通話やテキストメッセージから、ネット接続によるさまざまなサービスの利用へと大きく姿を変えたのだ。