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東証トラブルは「システム過信」 「人為ミス」が傷口広げる

   241銘柄の取引一時停止を余儀なくされた2012年2月2日の東証システムトラブルで、東証は16日、人為ミスが事態を悪化させたとする報告書をまとめ、金融庁に提出した。

   「システムに完全はない」だけに、いかに有効なバックアップ体制をとるかがシステム運営のキモだが、何とも心許ないリスク管理体制が露呈した。東証は斉藤惇社長の月額報酬の30%を1カ月減額するなどの処分も併せて発表した。

過去のトラブルは自動で予備機に切り替わる

   東証によると、直接の原因は、株取引の注文を付け合わせる売買システム自体ではなく、取引結果の株価情報を「クイック」などに配信する8サーバーの一つ(具体的には「6号機」)の故障だ。このため、全体の約1割にあたる241銘柄分について情報が流せなくなった。投資判断のもとになる株価情報なしに取引できないとして、2日午前の売買を停止した。

   東証によると、2日午前1時27分、この「6号機」が故障していることをシステム監視装置が感知し、アラームを鳴らして警告。24時間待機している東証子会社の従業員(オペレーター)が端末で確認し、やはり24時間待機している機器開発業者の富士通の担当者に連絡した。

   2010年1月の新システム導入後、同様の障害は4回起きていて珍しいことではなく、4回とも予備機に自動的に切り替わって事なきを得ていた。

   今回も「自動的に切り替わるだろう」との思い込みがあったのかもしれない。監視装置による障害の診断結果の表示を確認した富士通の担当者は「予備機に切り替わった」と判断し、オペレーターに報告。オペレーターも自主的に診断結果を確認しなかった。

東証社員が24時間常駐体制に

   しかし、実は診断結果は「切り替わっていない」ことを示していた。富士通担当者が表示を誤認していたのだった。この時点で切り替わっていないことを把握し、手動で予備機に切り替えていれば、通常とおり売買を行うことも可能だった。

   東証は2日、診断結果は「予備機に切り替わったと示していた」と説明していたが、調査した結果、「誤認」が判明した。ただ、確認する責任は東証にあるとして、富士通に損害賠償請求はしない。

   トラブルが解消されていないことを確認したのは、アラームから6時間もたった午前7時38分。午前9時の取引開始は目前に迫っていた。

   東証は過去のシステムトラブルの反省を踏まえ、NTTグループ出身の鈴木義伯氏を専務兼最高情報責任者(CIO)に招いているが、この午前7時38分の時点でもCIOに連絡が取れず、8時の出社を待たねばならなかった。取引開始までに予備機に手動で切り替え、稼働テストなどをこなす余裕もなく、8時40分に売買停止を決定した。

   東証は再発防止策として、東証社員がコンピューターセンターに24時間常駐して、深夜・早朝の故障確認体制を強化する。これとは別途、早朝(午前7時)の勤務態勢を強化するほか、「業務に支障が出る可能性がある」段階でCIOに連絡をとることとする。

   大証と経営統合し2013年1月の「日本取引所グループ」の誕生を控える大事な時期に、「システムの信頼性への過信」(東証の発表文)が生んだ売買停止。世界のマネーを呼び込み、国際競争力を高めるには、リスク管理の強化で地道に信頼を取り戻すほかない。