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「『仰げば尊し』に異論」 「教師への尊敬を強要」しているのか

   卒業式で「仰げば尊し」を歌うことに異論を唱える公立学校教職員らがいる、と改めて注目されている。歌詞の一部が「教師への尊敬を強要するものだ」という趣旨のようだ。

   大阪府立高の卒業式で「国歌斉唱の口元チェック」を指示したと報じられた、和泉高校の中原徹校長が、週刊ポスト最新号の記事中で、「仰げば尊し」に校内で異論があったことを指摘したのが、注目を集めたきっかけだ。

「もう別の歌に替えてもいいのでは」

   中原校長に話を聞いた。中原校長は弁護士で、橋下徹・大阪市長の友人だ。橋下氏が府知事時代、民間人校長として採用された。

   中原校長は、卒業式で「仰げば尊し」を歌うことに対し、「もう別の歌に替えてもいいのでは」と異論を唱える教職員がいることを知り、卒業式の前、教職員間で話し合いをした。これまでも議論を重視し、話し合いを通じて解決してきたという。

   「仰げば尊し」へ異論があることを最初に耳にした際は、「異論がある理由・意味が分からなかった」。校長になる前に約10年間、アメリカの弁護士事務所で働いていたこともあり、ピンと来なかったのだ。

   ベテラン教員に聞いてみると、君が代問題は府の起立斉唱条例ができたので、「仰げば尊し」の方を問題視する教職員もいるようだ、との解説だった。

   約60人の教職員のうち、異論を述べたのは2人程度だ。「教師が自分の方から『ほめろ』と生徒に求めるのはおかしい」といった理由だった。しかし、3年生の担当団の教員らが「『仰げば尊し』を歌うのはこの学校の伝統だし、歌った方がよい」という意見だったことで、異論を述べた教職員も「それなら」と歌うことを受け入れた。

   卒業式後、中原校長が約30人のPTAの保護者に「仰げば尊し」の感想を聞いたところ、「小中学校の卒業式では歌わないことが多いので、懐かしかった」といった意見が多く、「仰げば尊し」を歌うことへの反対論はなかった。

歌詞の「師」は、「学校の先生だけではない」

   中原校長は、保護者らの反応を教員らへメールで送った。一部には反対論もあるかもしれないが、社会通念上は「仰げば尊し」を歌うことは歓迎されていると考え、来年度からも歌っていく方針を示した。

   中原校長自身はどう考えているのか。「まず、学習指導要領や府条例で決まりがある君が代斉唱とは、問題の次元がまったく別です」と指摘した。

   国歌斉唱以外では、「仰げば尊し」を含めどんな歌を歌うかは、学校ごとに自由に決めればよい。生徒や保護者の意見を聞きながら、教職員らが話し合い、最後は校長が決済する。

 「『仰げば尊し』を守るべきだ、と考えているわけではない」

   しかし、教職員らとの話し合いの場では、「歌詞にある『師』とは、学校の先生だけでなく、自分たちを育ててくれた人一般を指し、感謝を示しているのではないか」という意見を述べた。また、

「あくまで問題は、教職員の服務規律の意識の低さ。『仰げば尊し』より、マスコミにはこちらの問題をもっと報じてほしい」

と注文をつけた。

   先の「ベテラン教員」の指摘のように、府の国歌起立条例を受け、「仰げば尊し」に反対する教職員が増えている傾向はあるのか、日本教職員組合(日教組)のある大阪府関係者にきいてみた。すると、統計はないが「仰げば尊し」を歌っている学校はかなり少ないとみられ、「話題になっていない」とのことだった。

   「仰げば尊し」への異論は以前からあった。朝日新聞の2011年1月26日付のコラム「天声人語」では、歌詞の「わが師の恩」などの句に対し異論があるとして、「だんだん歌われなくなった」と指摘していた。

   小中高校の卒業式ソングに関して、「すららネット」(eラーニング教材を展開)が3月7日発表した調査結果によると、総合1位は、埼玉県の中学校長らがつくった「旅立ちの日に」、2位はレミオロメンの「3月9日」だった。4位には「栄光の架橋」(ゆず)、5位には「ありがとう」(いきものがかり)が入った。