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高橋洋一の民主党ウォッチ
「橋下市長VS女性記者」にみる 「動画で可視化」の重要性

   橋下徹大阪市長はおもしろい話題を提供してくれる。2012年5月8日に行った囲み取材で、MBS(毎日放送、大阪市)の女性記者とのやりとりだ。

   その内容は、いわゆる「卒業式の国歌斉唱時、教員の口元チェック」問題だが、YouTube(ユーチューブ)に動画が公開されている( http://bit.ly/JbdHmM )。

「質問する相手を間違っている」

大阪市は、橋下市長の会見動画を公開している。
大阪市は、橋下市長の会見動画を公開している。

   橋下市長はツイッターで、

   「府立高校卒業式での君が代起立斉唱は、1、教育委員会が決定し、全教員に起立斉唱の職務命令を出した 2、教育委員が府立高校全校長に対して各校の教員が起立斉唱するよう指導することを通達した 3、中原校長は口元チェックを教育委員会事務局に確認して了解を得た」、

   「4、口元チェックに対して前委員長、小河委員が否定的コメントをテレビの取材で行ったが、その後の教育委員会会議で口元チェックは何ら問題がなかったことを確認した」と書いている。

   動画をみれば、女性記者の教育委員会制度への知識不足は明らかだ。基本的には、質問する相手を間違っている。橋下市長ではなく教育委員会に聞くべき内容だ。実は、国会審議でもお門違いの質問はたまにある。その場合、なんども「お答えできません」といい、答弁を逃げていると勘違いさせて、最後に「所掌でない」といったこともある。

   本件の場合、よくある話だが、放送内容が先にできていて、橋下市長のコメントをとってこいと言われた記者のようだ。それに対して、橋下市長でなければ「それは所掌外なのでコメントできない」と無難に言っていただろう。その場合、放送では「コメントできない」の部分を報道し、橋下市長が逃げているかのような印象にしたのではないか。

   ここが橋下市長の面白いところであるが、本人がいうように「しつこい」ので、囲み取材も徹底的に時間を使う。人との議論・やりとり自体が好きなのだろう。しかも筋書きなしのガチンコでもまったく動じないし、そうした実戦を通じて構想を構築していくタイプだ。弁護士ならではの持ち味だろう。

マスコミへの税務調査も税務調査は無言の圧力?

   さらに、興味深いのは公開性だ。記者会見をユーチューブですべて公開し、「可視化」を行っている。実際の行政でも関係部署の議論は「可視化」して公開している。こうなると、議論の結果はおのずと見えてくる。もし、今回の件でも、ユーチューブがなく、同席した記者からの情報発信だけであれば、記者仲間の配慮から、ここまで記者の質問内容が酷いことは書かれないだろう。

   橋下市長の「可視化」によって、MBS記者の不勉強ぶりが晒されてしまった。動画では、できれば、橋下市長の映像だけでなく、橋下市長の後ろ側からの映像もとって、誰が質問したかがわかるとなおいいだろう。

   MBSでは番組を見て欲しいと商売気を出しているが、記者会見自体が可視化されて面白い情報になっており、それよりつまらない番組だと、既存メディアとしての評判を下げてしまう可能性もある。

   いずれにしても、可視化は今後の社会で興味深いツールになる。今の新聞・テレビは消費税増税一色で面白くない。その背景として、国税の税務調査が新聞・テレビに入り、無言の圧力になっているという噂もある。その真偽は明らかでないが、税務調査は職場に調査官が来るわけなので、その一部始終を可視化するのは、自分たちの職場内での行為なので誰にも邪魔される筋合いでない。

   メディアなのだから、ユーチューブに出さずに、自らの媒体で可視化して報道したらどうだろうか。きっと面白いことになるとともに、税務当局としても、いわれなき「圧力」への反論材料になるだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。