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発送電分離容認した電力業界の作戦 原発再稼働するまでは「低姿勢」?

   電力会社の発電部門と送電部門を分割することで電力会社の地域独占を見直し、電気料金の引き下げにつなげることをねらった「発送電分離」について、電力業界が容認する姿勢を示した。「電力の安定供給」を盾に強く反対してきた従来の姿勢を転換したのはなぜなのか。

   経済産業省の専門委員会が2012年7月21日まとめた報告書で「発送電分離」や電力小売り自由化の対象を小規模事業者や一般家庭にも広げる全面自由化方針を明記したことを受け、電力会社の業界団体である電気事業連合会が条件付きで受け入れる考えを示した。

電力会社の強い抵抗で実施が見送られる

   「今、守旧派の印象を持たれるのは好ましくない」。関西電力のある幹部は、容認に転じた理由を尋ねられると、そう語り、まずは停止中の原発の再稼働を最優先したい業界事情をにじませた。各社の業績は代替電源となる火力発電用燃料費の負担で急速に悪化しており、原発再稼働を実現するまでは「低姿勢」を装う以外にないというわけだ。

   発送電の分離を含む電力自由化の方針は、10年以上前に経産省が打ち出した。しかし、電力会社の強い抵抗で実施が見送られた経緯がある。その背景に挙げたのが、自由化の先鞭をつけた米国カリフォルニア州で起きた電力危機だった。

   2000年の夏、天然ガス価格の上昇や猛暑による需要の増加で電力の卸売価格が上昇したことをきっかけに、販売価格と仕入れ価格が逆ざやとなった送電会社の経営が悪化。料金回収が危うくなった発電会社が電気の供給を絞ったことから大規模な停電につながったとされる問題だ。

「分離」がどんな形態になるかは未定

   カリフォルニア州が送電会社側に環境負荷の少ない電気を一定量割高で購入するよう義務づけるなど、電力価格の自由化が不十分だったことが原因との見解が専門家などから指摘されている。しかし実際に電力を使う企業や家庭などの顧客と接点を持つ送電部門と、発電部門が切り離されれば、電力を安定的に供給する義務は果たせないという電力会社側の主張がこの時点で一定の説得力を持ったのは事実で、経産省も自由化の旗を降ろさざるを得なかった。

   しかし、福島第1原発事故以降、東電などの電力会社の経営体質に起因するとみられる問題が次々に起こり、枝野幸男経産相ら政府・与党幹部から電力業界に競争原理の導入を求める声が強まった。今回の専門委の結論もその延長にある。

   ただし、実体として「分離」がどんな形態になるかは、まだ決まっていない。専門委の報告書は具体論を先送りし、秋から議論を再開する。送配電部門を既存電力会社の子会社として切り離す「法的分離」か、電力会社内に置いたまま、送配電の運用を中立機関に委ねる「機能分離」か。電力会社の業界団体である電気事業連合会は、同専門委の議論の過程で、「送電部門を担う機関が本当に中立な機関になるのかどうか」などの懸念を示している。経産省が法案の提出を目指す来年の通常国会に向けて攻防が再燃する見通しだ。