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イチロー「電撃移籍」は自ら志願 5年前から「ヤンキース」の話

   米大リーグのイチロー選手が現地時間2012年7月23日、11年半所属したシアトル・マリナーズからニューヨーク・ヤンキースへトレードで移籍した。会見では、自らチームを移る決断を球団に申し入れていたと打ち明けた。

   低迷を続けるマリナーズに比べて、ヤンキースはワールドシリーズ優勝を狙える強豪。大リーグで優勝経験のないイチローにとっては「意中の球団」だったかもしれない。

「僕がいるべきではないのではないか」

シアトルの地元紙も大きく報じた
シアトルの地元紙も大きく報じた

   スーツ姿で記者会見に臨んだイチロー選手は冒頭、ファンへの感謝を述べた。2001年、マリナーズに入団して以降「同じ時間や思いを共有してきた」ことへの感慨を口にし、「今の思いを簡潔に表現することは難しい」と言うと10秒ほど声を詰まらせた。その後もたびたび、話の途中で涙をこらえているようにも映った。

   「電撃移籍」は、7月第2週の球宴期間中にイチロー選手本人が出した答えに基づいているという。今季のマリナーズは再建の途上で、試合では若手中心の起用が進んでいる。現在38歳のイチロー選手はこれまで打率2割6分1厘。過去の数字と比べると物足りなさは否めない。今季は起用法をめぐって、シーズン当初は3番だった打順が1番に戻り、最近は2番とクルクル変わっていた。球団の事情を考えた時、「このチームに来年以降、僕がいるべきではないのではないか」と判断したという。

   一方で、「僕自身も環境を変えて刺激を求めたいという強い思いが芽生えてきた」。2001年の入団以降、マリナーズがプレーオフに進出したのは1年目だけで、近年は最下位が「定位置」だ。加えて今季終了後には5年契約が満了する。1996年にプロ野球、オリックス・ブルーウェーブ(当時)で日本一に輝き、2009年の第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では決勝打を放って日本を優勝に導いた。しかしマリナーズでは美酒に酔った経験がなく、今季もポストシーズン進出がほぼ絶望的だ。数々の個人記録を塗り替えてきたイチロー選手にとって、キャリアの集大成に「ワールドシリーズ制覇」を望んでも不思議はないだろう。

   結論が出た以上は「できるだけ早くチームを去ることが、マリナーズにも僕にもよいことではないか」と決断し、球団に受け入れられたとイチロー選手は明かした。

マリナーズは契約更新を望んでいた?

   実はヤンキースは、過去にも移籍先として名前があがったことがある。2007年7月、イチロー選手はマリナーズとの契約を5年間延長したが、当時報道陣に対して「心が動いた時期もありました」と心境を吐露した。同年11月24日付のサンケイスポーツのインタビューでは、自らの去就について「春先から迷っていた」としたうえで、仮にマリナーズを出た場合に「自分も他人も納得できるのはヤンキースしかないのかな、と考えたりもしました」と打ち明けた。

   移籍会見で「チームの希望はあったか」と問われたイチロー選手は、「あったが、ここでなくては、というものはなかった」と具体的な球団名は出さなかった。米シアトルタイムズ紙(電子版)によると、マリナーズのチャック・アームストロング球団社長も「イチローの承諾の下、数チームと交渉した」と認めている。ヤンキースは現在、ア・リーグ東地区首位を走り、順当にいけばプレーオフ進出は間違いない。戦力を見ても、イチロー選手のキャリアが突出していたマリナーズと比べて、投打ともにスター選手が顔を並べる。5年前に一度は「最終候補」として思い描き、まだ手にしていないワールドシリーズでのチャンピオンリングが十分狙えるヤンキースは、願ってもない移籍先と言えそうだ。

   一方でアームストロング球団社長は、イチロー選手との契約更新の可能性について昨シーズン終了後や今季開幕前のキャンプ、さらに5、6月の時点で打診していたが、イチロー選手側から「今シーズン終了後まで待ってほしい」との要望が出されていたと明かした。本人が決断したのは最近だが、マリナーズを去る選択肢は意外に早い段階から頭に浮かんでいたのかもしれない。

   「ヤンキース・イチロー」としてプレーした最初の試合は、くしくもシアトルでのマリナーズ戦となった。イチロー選手は「8番・右翼」で先発出場。打席に立つと「元」本拠地の観客からはスタンディングオベーションが起きる。ファンに向かってヘルメットを脱ぎ、深々とおじぎをしたイチロー選手はこの打席、いきなり中前打で出塁したうえ二盗にも成功。「イチローらしさ」を存分に発揮して、長年応援してくれた古巣のファンの声援にこたえた。