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政治への無関心は「考えずに楽しく生きよう」という「甘え」だ  
「政治家追っかけタレント」春香クリスティーンさんに聞く

   今回の衆院総選挙でも、若者の投票率は低水準で終わりそうだ。そんな中、「国会議員の追っかけ」や「『政治家カルタ』づくり」で急に知名度を上げているのがタレントでモデルの春香クリスティーンさん(20)だ。

   生まれ育ったスイスでは、ごく自然に政治について話題になるといい、16歳で来日した際には「ショックを受けた」という。日本とスイスの若者の政治参加に対する意識は、どう違うのか。日本の若者の投票率は、どうすれば上がるのか。春香さんの思いを聞いた。


――春香さんは期日前投票で初めての1票を投じましたが、緊張しましたか?

春香 投票に行くときには投票先は決まっているので、あとは間違って名前を書かないように、という緊張感ですね。それよりも前の段階でいかに情報を詰め込めるかが大きなポイントでしたね。期日前投票で投票する場合、今回は遅れて情報が出る党が多かったので、そこにいかに追いつくかですね。ちゃんと情報を得てから投票に行きたかったんです。

大阪で見た日本維新の会の演説は面白かったです

春香クリスティーンさんは「自分から動くこと、受動的にならないこと」が重要だと話す
春香クリスティーンさんは「自分から動くこと、受動的にならないこと」が重要だと話す

――どのようにして投票先を決めましたか。

春香 一番大きいのは、普段から国会議員のツイッターなどを見ながら、政党の色や雰囲気をつかんでおくことが大事だと思います。各党のマニフェストもプリントアウトして読みましたし、街頭演説を聞いて回ったりもしました。その上でどれだけ自分と合うかを判断しました。何となく入れる票と、「よし!」と自分で納得して入れる票は違うと思う。

――印象に残った街頭演説はありましたか?

春香 大阪で見た日本維新の会の演説は面白かったですね。橋下徹代表代行と松井一郎幹事長が、「大阪から全国に」という強いメッセージを発していたと思います。身振り手振りもインパクトが大きかったです。自民党の安倍晋三総裁は、最後は「エイ、エイ、オー!」と一体感が生まれたのが印象的でした。声は枯れ気味でしたが、人柄がにじみ出ていたと思います。暖かみがありました。野田佳彦首相(民主党代表)は、身近な表現を使っていて面白かったですね。解散すると決めてから、一直線ですよね。小沢(一郎)さんや鳩山(由紀夫)さんを追い出してしまった人ですが、「あるべき民主党」を示してもいる訳ですから、リーダーシップを発揮している感じがしますよね。選挙までの時間がない中、これはプラスに働いたのではないでしょうか。

「政治と宗教の話はタブー」といった雰囲気もあります

――「未来の党」はいかがですか?

春香 「反TPP」「反原発」といった、共通の旗印を持った人が集まってきたのは、他の政党と比べて分かりやすかったのですが、ただ何しろ遅かったと思いますね。もっと早ければ…と思います。ギリギリ過ぎましたよね。

――初めての投票で、ここまで政治について熱く語る人は珍しいと思うのですが、何がきっかけで政治に関心を持つようになったのでしょうか?

春香 元々のきっかけは、スイスから日本の高校に編入して、あまりにも日本の高校生は政治に興味がない、ということに違和感を抱いたことにあります。スイスは直接民主制が一部で導入されていて、国民投票も行われるので、学校でも新聞を読んで「EU(欧州連合)にスイスが加入すべきかについて議論になっているけど、どう思う?」といった話は普通です。でも日本では一切なくて、逆に「なんで興味ないの?」と聞くと、「興味持っても何も変わらない」というネガディブな答えが返ってくる。「政治と宗教の話はタブー」といった雰囲気もあります。
   「興味がない」「知ってもしょうがない」とネガティブなことを言っている割に、知らないんです。私は、それが納得いかない。もしかしたら日本の政治は良いかも知れないし、悪いかも知れない。それは分からないけど、知らないのに悪いだの何だの言っているのは嫌だと思って、「とりあえず見てみよう」と思ったのがきっかけでした。

違いは、「自分の意見をぶつけ合うかどうか」

――スイスの高校では、選挙以外の事柄についても、色々議論したりするのでしょうか?

春香 日本と海外の違いは、「自分の意見をぶつけ合うかどうか」だと思います。日本は「一体感」を重視するのに比べて、海外ではお互いの意見がぶつかって強い意見が通る、といったところがある。日本に来ると、話題になるのは例えば「髪を切った」といった、ふわっとした、争いようのないことばかりです。適当に話を合わせればいい。それに対して「未来のこと」は、重みが違います。それを日本の高校生は話そうとしない。
   仮に考えがあったとしても、人と意見交換しないと、その考えは育たないのではないでしょうか。そういうこともあって、20代が議論をする機会は少ないと思います。いきなり「1票を入れろ」と言っても難しい。「適当に入れよう」ということはできるかも知れないですが、考えを深めた上で投票するのは難しい。

機会は沢山あるのに、そこから逃げている

――どうして、日本の高校生は考えを深める機会に恵まれないのでしょう。

春香 街頭演説や選挙カーなど、刺激を受ける機会は沢山あるのに、そこから逃げていると思います。向き合うことが、1歩進むことだと思います。それが、自分の将来を見据えて投票することにつながります。「将来を考えない人=自分が数年後に何をやりたいか分からない人」でもあります。そういう人は、就職活動でも、訳が分からないまま沢山の企業を受けるのでしょう。「自分のことも分からないし、社会のことも分からない。とりあえず、今を楽しく生きよう」という甘えです。「考えないでおくのがいい、後回しにするのがいい」という考え方が、低投票率や日本社会の閉塞感として反映されていると思います。

自分から動くこと、受動的にならないこと

――「選び取る」というプロセスを避けている部分があるんでしょうね。

春香 討論し合って、広いマインドで若いうちから刺激を受けて、自分の考えを成長させることが大事。日本の人は、すごく調べる力も高いし暗記力もある。それを生かしきれておらず、もったいないです。外国では暗記に力を入れている訳ではありませんが、推理、推測は非常に上手ですね。せっかく持っている知識を活用できず、もったいないですね。
   スイスの中学校では、講堂に各政党の青年部がやってきて、政策について討論会を開いていました。「各党は、こういう意見を持っている」ということを知る機会があったわけです。そういう意味では、政治との距離は近かったですね。若いうちから政治に触れていることは大事で、政治に対する恐怖感はなくて、「いつの間にか溶け込んでいる」という感じです。

――最後に、日本の若者に望むことを聞かせてください。

春香 自分から動くこと、受動的にならないこと。情報収集を自分でやってみる。ツイッターで少しでも国会議員をフォローしてタイムラインを入れてみるだけでも、かなり違うと思います。ただ、公示後は候補者がツイッターの更新ができなくなったりと、ネットに関する法律が厳しすぎて…。そこは時代に合わせて欲しいですよね。投票率を上げるためにも、ネットを活用した選挙が身近になればいいと思います。

春香クリスティーンさん プロフィール
はるか・クリスティーン 1992年、スイス・チューリッヒ生まれ。父親が日本人で、母親がスイス人。高校2年で単身来日し、現在は上智大学文学部新聞学科に在学中。大学に入学した頃から国会議員の「追っかけ」を始め、多いときには週に2~3回国会に通う。タレントとしてバラエティー番組やクイズ番組でも活躍している。