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北朝鮮南西部で12年に大飢饉 1万人が犠牲、「飢えた親が子どもを食べる」事件も

   北朝鮮南西部の穀倉地帯で2012年に大規模な飢饉が起こり、1万人以上が死亡した模様だ。独自のルートで北朝鮮人記者を教育し、北朝鮮国内の様子を報じているアジアプレスが明らかにした。親が子どもを釜ゆでにして食べるというショッキングな事件も起こっていたようで、英国や韓国メディアでも大きく報じられている。

   北朝鮮は12年12月には、人工衛星と称する事実上の弾道ミサイルの打ち上げに成功したばかり。金正恩第1書記は打ち上げ成功を祝う大規模な宴会を何度も開き、13年1月1日の新年の辞では、

「生産を増やすことに大きな力を入れ、人民の生活により多くの恩恵が行き届くようにしなければならない」

と誓ったばかりだった。首都平壌では高層ビルの建築が進むなど生活が豊かになるように見える反面、それ以外の地域では、実情は大きく異なるようだ。

中朝国境地帯で住民6人に聞き取り調査

   飢餓が起きたとされるのは、北朝鮮南西部の黄海道(ファンヘド、行政区上は黄海北道と黄海南道に分かれる)。アジアプレスでは12年3月以降、北朝鮮内部の協力者が実態調査を行ったほか、8~9月には、中朝国境地帯に出国してきた黄海道住民6人に聞き取り調査を行った。証言を総合すると、飢饉のピークは12年4~6月だとみられる。

   驚くべきことに、6人全員が人肉の流通に関する事件が起こったことを証言したという。例えば黄海南道の農村で朝鮮労働党の方針を伝える役割を担っているという中堅幹部のキム氏(仮名)は、

「5月から6月にかけて訪れた農村は、目を覆いたくなるような状況でした。何も食べ物がないんですから。老いた親を追い出したり、子どもを捨てたりというのも珍しいことではありませんでした」
「青丹(チョンダン)郡の花陽里(ファヤンリ)という村では、空腹でおかしくなった親が子を釜茹でして食べて捕まる事件がありました」

と、村中で餓死者が出ていることを証言。黄海南道で農村幹部をしているというリム氏も、

「私の村では、5月に子ども2人を殺して食べようとした父親が銃殺になりました。妻が商売で留守の間に長女に手を出したのですが、息子に目撃されたため、一緒に殺したのです。家に戻ってきた妻に『肉がある』と勧めたのですが、子どもの姿が見えないことをいぶかしんだ母親が、翌日保安部(警察)に通報すると、軒下から子どもたちの遺体の一部が見つかったそうです」
「海州(ヘジュ、黄海南道最大の都市)では5月に、11人を殺しその肉を豚肉として流通させた犯人が銃殺された」

と、同様の証言をしている。人肉を流通させることは北朝鮮でも厳しく取り締まられる模様で、事件化することで表沙汰になり、広く話が知られるようになったとみられる。

「軍糧米」「首都米」の名目で農民から穀物を収奪

   飢饉の元々の原因は、台風や大雨といった天候不順だ。それに加えて、軍人や農村幹部らが、軍隊に送る「軍糧米」や平壌に送る「首都米」の名目で強制的に農民から穀物を取り上げてしまうため、穀倉地帯にもかかわらず飢饉が起こった模様だ。

   なお、アジアプレス以外にも、東京新聞、デイリーNK、毎日新聞などが12年に黄海北道や黄海南道で飢饉が起こって餓死者が出たことを指摘している。

   アジアプレスでは、調査内容を報告書にまとめて2013年1月28日に公表。報告書を国連機関や人道支援団体に送って、実態調査や緊急食糧支援を働きかけることにしている。

   報告書の内容は非常にショッキングなだけに、世界各地で報じられている。英高級紙のサンデー・タイムズは1月27日、「飢えた親は子どもを食べ、金正恩は宴会をする」という見出しで飢饉の内容を伝えているほか、韓国各紙も1月28日、サンデー・タイムズの内容を紹介する形で伝えている。