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世界をリードする日本の先進医療 難聴治療や血管再生など取組み進む

   新しい医療技術の開発・普及をめざす「先進医療フォーラム」 (理事長=大坪修・東都医療大学学長) の第4回大会が2013年1月19日、東京で開かれた。昨年、ノーベル医学・生理学賞を受けたiPS細胞を用いる再生医療をはじめとして、いくつもの大胆な挑戦が発表され、参加した医師らの注目を集めた。

iPS細胞での治療を視野に

   シンポジウム「世界をリードするわが国の再生医療最前線」では、京都大学耳鼻咽喉科の伊藤寿一教授らが内耳に原因がある感音性難聴治療を報告した。内耳細胞に有効と考えられているのはホルモンの一種、「IGF-1」(ヒトインスリン様細胞成長因子)。

   伊藤さんたちは、感音性難聴の一つ突発性難聴で、標準治療のステロイド剤が効かない患者25人にゼラチンと混ぜた徐放性IGF-1を中耳から内耳にしみ込ませたところ14人 (56%) の聴力が改善した。現在、120人を対象とした比較対照試験をしている。伊藤さんらは内耳のラセン神経節細胞を再生すると、人工内耳で聴力が回復できることをサルで確かめており、ヒトiPS細胞での治療を視野に入れている。

   日本医科大学再生医療科の高木元講師らは10年前から骨髄幹細胞移植による足の血管再生治療に取り組んでいる。8割は下肢の切断を免れるほど有効だが、その背景に血管新生物質のb-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)があることを突き止めた。ゼラチンに混ぜた徐放性の因子でさらに有効性が増している。

   理化学研究所神戸研究所網膜再生医療プロジェクトの万代道子・副プロジェクトリーダーは加齢黄斑変成の治療研究の現状を報告した。マウスやサル実験を経て、2013年中には患者の皮膚からのiPS細胞を網膜色素上皮細胞に成長させ、治療する臨床試験を始めたい意向だ。iPS細胞の臨床試験としては世界初になる可能性がある。

   2007年、心臓移植待ち患者の心臓に足の筋肉細胞から作った細胞シートを張って治療に成功した大阪大学心臓外科の澤芳樹教授は、これまで20人の重症心不全患者に実施、心機能のレベルが一定以上であれば効果が高いことを確認した。

   一般発表では国立成育医療研究センターが胎児手術に向けた手術機器の開発に取り組んでいることを発表した。

(医療ジャーナリスト・田辺功)