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「原発回帰」安倍政権 再稼働の行方(6)
核燃料サイクルは問題だらけ 再処理コスト「19兆円」で収まらない

   これまで日本の原発政策で重視されてきたのが、核燃料サイクルだ。原発での発電で生じた使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、原発で再利用する考え方だ。青森県六ヶ所村には、再処理工場と関連施設が建設された。

   では再処理にかかる費用は、いったいどれほどに上るのか。今までに発表された数字は「19兆円」だ。巨額なコストだが、専門家によるとこれでも見積もりが甘いという。核燃料サイクルをやめない限り、さらに費用は膨大なものになると警鐘を鳴らす。

40年間運転し続けても3万4000トンが中間貯蔵に回る

再処理に関する費用の項目は塗りつぶされていた
再処理に関する費用の項目は塗りつぶされていた

   再処理工場の総費用11兆円、放射性廃棄物管理などバックエンド費用を合わせると約19兆円――。六ヶ所再処理施設にかかわるコストについて、電気事業連合会(電事連)が2004年1月付で公表した金額だ。現時点で公式な数字と位置付けられるが、原子力資料情報室(CNIC)で核燃料サイクル問題を担当する澤井正子氏に取材すると、この金額に潜む問題点を明らかにした。

「再処理コストに関する議論は、当初存在しませんでした」

   もともと公表されていたのは再処理工場の建設費だけで、1993年の着工当時は7600億円だったのが96年に1兆8800億円、99年に2兆1400億円と膨れ上がった。そして2004年の電事連の発表で、唐突に「19兆円」が現れたという。「これほどコストがかさむと思っていなかった電力会社が、『受益者負担』として国民に転嫁するために慌ててはじき出したのでしょう」。

   だが見積もり根拠となる事業計画はずさんだったと断じる。六ヶ所再処理工場の処理能力は年間800トンで、2006年から40年間運転する計画だった。しかも「40年間無事故でフル稼働」という前提だ。

   ところが、既に稼働していた原発からは毎年1000~1100トンの使用済み核燃料が発生していた。再処理しきれず余剰が出る計算で、過去の蓄積分と合わせると2046年までに3万4000トンが中間貯蔵に回るとはじき出されたのだ。そのうえ工場が操業を終えて解体されても、原発を動かし続ければ使用済み燃料は増え続ける。操業終了以降の再処理や中間貯蔵のコストは算出されていない。

   一方で再処理工場の建設費や運営、解体にかかるコストと、再処理によって発生する高レベル廃棄物の処分場の建設費用は、電気料金に上乗せされた。電力会社は徴収した分を、原子力環境整備促進・資金管理センターに積み立てている。六ヶ所再処理工場の運営母体である日本原燃は、再処理にかかる費用を経済産業大臣に報告している。CNICが入手した2009年3月17日付の届出書を見せてもらうと、ごく一部を除いて金額の内訳がすべて真っ黒に塗りつぶされていた。後年の届出書では数値も隠されなくなったが、極力公表したくないとの事業者側の姿勢がうかがえる。

発生する期間の設定が実に360年間にも渡る

CNIC核燃料サイクル問題担当、澤井正子氏
CNIC核燃料サイクル問題担当、澤井正子氏

   驚く点はほかにもある。再処理費用が発生する期間の設定が、2005年から2369年までと、実に360年間にも渡っていると澤井氏は言う。非現実的とも思える想定となったのは、未来に先送りしつつ「広く薄く」徴収することにして、現役世代から「負担が重い」との批判をかわすためだろうか。

   既に電気料金に反映されている再処理コストだが、利用者が毎月受け取る明細を見ても、具体的な額は明記されていない。金額的には不満が上がるほど大きいわけではなさそうで、あまり実感がわかないまま支払っている可能性は高い。もし「360年間」ではなく、再処理工場の操業可能期間としている40年間で「19兆円」を完済するとなれば、今とは比べ物にならないほど負担が増大するはずだ。

   そのうえ澤井氏は、19兆円では到底収まらない公算が高いと考える。電事連が算出した2004年時点で含まれていなかった「第2再処理工場」をはじめ、当初は想定外だったコストが発生する恐れがあるのだ。2005年からスタート予定だった再処理事業もいまだ試験段階で、MOX燃料工場に至っては完成していない。核燃料サイクルの実施が大幅に遅れている半面、関西電力大飯原発3、4号機が2012年7月に再稼働したため、使用済み核燃料は再び出始めている。本格稼働が遅れるなか、当初描いた青写真が既に崩れている。

「全量再処理」諦めれば19兆円のうち7割を削減可能

   東京電力福島第1原発の事故を受けて、内閣府原子力委員会では核燃料サイクルのあり方を議論してきた。2012年6月11日付の原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会資料を見ると、興味深い試算が載っている。

   ここでは、核燃料サイクル推進のうえで大前提とされてきた使用済み核燃料の全量再処理と、再処理せず直接処分した場合、それぞれ併存させた場合の3パターンについての費用が計算された。2030年における電力の総需要における原子力比率を0%、15%、20%、35%と仮定して推計したところ、いずれも直接処分のコストが最も低かったのだ。最も原子力比率が高い35%でも、全量再処理が18兆4100億円なのに対して、直接処分は14兆8100億円だ。

   澤井氏は「直接処分すれば安くなるのは当然」で、今すぐ核燃料サイクルを諦めれば負担を最小限に抑えられると主張する。既に完成している施設の建設費や、これまで発生した使用済み核燃料の処分場の設置費用は避けられないが、再処理工場の運転、MOX燃料加工工場、TRU廃棄物(超ウラン元素を含む廃棄物)のコストが不要となり、19兆円のうち7割を削減できるというのだ。

   費用を度外視して核燃料サイクルを推し進めたとしても、六ヶ所再処理工場で「生産」するプルトニウムが本当に必要なのか。高速増殖炉「もんじゅ」は操業再開のメドが立たず、プルサーマルによりMOX燃料を原発で用いようにも、福島第1の事故を経た今、国民感情としてプルトニウムを使った発電を許すだろうかと澤井氏は疑問を呈する。

   本格稼働させれば費用が「右肩上がり」で膨らみ、生みだされるのは使い道に困るプルトニウム――。それでも国が「全量再処理」の方針を今も捨てていないのは、「『核のゴミ』の貯蔵プールとしての役割が欲しいからではないか」と澤井氏は指摘する。青森県は、もし再処理が中止となれば使用済み核燃料を六ヶ所村から各原発に送り返すとしている。安易に退却できないのが本音ではないかというのだ。