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定年後の雇用延長、企業の対応は? 改正高年齢者雇用安定法が4月スタート

   企業に65歳までの雇用を義務付ける改正高年齢者雇用安定法が2013年4月1日施行される。公的年金(厚生年金の報酬比例部分)の支給開始年齢が順次引き上げられるため、再就職できないと「無年金」の期間が生じる。その間の再雇用を義務化するという考え方で、一定の経過措置を踏んで、年金支給が65歳に移行し終わる2025年4月以降は希望者については継続雇用が完全義務化される。

正社員時代に比べて賃金は大幅に減少

   65歳までの雇用というのは、必ずしも「65歳定年」というわけではない。現在も、原則として60歳に達した人の再雇用が義務規定になっているが、継続雇用の対象者を選定する基準を「労使協定」で定められるとされている。つまり、基準に該当しない者は再雇用しなくてもよいという仕組みだ。

   基準とは、働く意思、勤務態度、健康、能力、経験、技能伝承など。「会社が必要と認める者」といった一方的、抽象的な規定はダメ。例えば勤務態度についても、会社側の恣意ではなく、「過去○年間の出勤率○%以上」など、なるべく客観的な指標が必要とされてきた。

   今回の改正では、2025年4月以降は希望者については継続雇用が完全義務化され、それまでの経過措置として、年金支給開始から65歳までの間は、従来と同様に「労使協定」で再雇用する者の選定基準を決めることができる、とされた。

   雇用形態も、正社員である必要はない。現在、60歳定年制を敷いている企業が多いが、60歳定年に達した人で希望する人は、アルバイトや嘱託など正社員とは違う身分で、賃金も正社員時代の大幅減で再雇用しているところが多い。

企業の関心は「総人件費」の抑制

   4月からの制度変更で、企業の対応は様々だ。

   定年を65歳に引き上げ、勤務成績の考課も実施し、完全に社員と扱うサントリーなどは、少数派。やはりまず、総人件費を抑えたいという企業側の切実な考えがある。その代表格がNTTグループで、65歳までの雇用継続のため、40~50代の人件費上昇を抑える。60~65歳の再雇用者の年収は現行の200万円台から300万~400万円台にアップするという。ワークシェアリング的な考え方で、従業員側も、自分の将来の再雇用を考えれば受け入れやすいともいえる。

   一方、60歳以上の再雇用者を、従来以上に戦力化しようというところもある。三菱重工業は60歳以降も能力に応じた業務を割り当て、実質的に賃金を上げる(従来は正社員時代から4割減)。JFEスチールも、リーダークラスの賃金をアップするという。再雇用義務化への対応とともに、若手への技能伝承をより確実にする狙いもあるようだ。

   高齢者の雇用継続により総人件費はどの程度増えるのか。みずほ総合研究所の試算では、これまで雇用を希望していない人も含めて65歳まで雇った場合、全企業の人件費は2025年には、2001~10年の平均より1.9兆円膨らむという。売り上げがグングン伸びる時代でもなく、雇用を拡大するのには多くの企業が慎重で、高齢者の雇用延長の分、若年層の雇用へのシワ寄せの心配がある。労務行政研究所のアンケート調査では、4割の企業が若年層の雇用を抑制すると回答している。

   実際、新人採用を抑えるなどの対応を進めてきた企業も多く、若手・中堅の士気を維持・向上を図りつつ、雇用延長とバランスをどうとるか、試行錯誤が続きそうだ。