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高橋洋一の自民党ウォッチ
「キプロス」では終わらない ユーロの動揺、まだ続く理由

   キプロスというなじみのない地中海の小島でユーロが揺れている。面積は山形県くらいであるが、人口は90万人程度。資源はないので、キプロス経済の主産業は金融と観光である。GDPは2兆円くらいだ。

   キプロスといえば、40年前からタックスヘヴン(租税回避地)として有名だった。めざすはスイスともいわれていた。2004年にEU加盟、2008年からのユーロ参加で一応有害税制はなくなったといわれている。

マネーロンダリングとキプロス経済

   ところが、その実態は法律の抜け穴は多く、マネーロンダリング(資金洗浄)がやりやすいので、ロシアやイギリスの富裕層から資金を集めていた。それでキプロス経済は見かけ銀行部門で収益を上げて好調だった。そのあげく、キプロスの銀行部門の資産は同国GDPの8倍程度にもなると言われているほどの資産膨張だった。これは、EU平均の3.5倍を上回る異常な数字だ。そして、銀行部門が2012年のギリシャ危機で大きな痛手を負い、金融危機になったわけだ。

   ここでキプロスの選択肢は二つだ。一つはユーロにとどまりEUからの支援を受け入れること。もう一つはユーロから離脱し2007年まで使われていたキプロス・ポンドに戻り通貨下落させること。前者はEUからの支援の見返りに、預金カットなどの国内への痛みを伴う措置が必要だ。後者は外国人預金者にとって預金カットになり、キプロス国民にとっては高インフレを甘受しなければいけない。

   もしキプロスがスイスのような金融立国を目指すなら、後者を選択して、スイス、リヒテンシュタインのようにスイス・フランという独自通貨が必要だ。その代わりに通貨維持にはどんな犠牲も払うという覚悟も必要だ。

最適通貨圏理論からわかる「圏外」の国々

   現実には、前者を選択した。既にEUに加盟し、多くのロシア富裕層がキプロス国籍を取得し、ユーロの恩恵を受けていたのだ。キプロスの行動は、そうした人々の利害を配慮したものとしか思えない。当初の預金封鎖による預金カットは預金額に関わらず一律だった。10万ユーロ以下の少額預金はカットしないというのが国際常識だが、逆にいえば高額預金者のロシア富裕層に配慮したのだろう。

   ともあれ、キプロスはユーロに残留する形になった。しかし、これはユーロの脆弱性をも露見させている。こうした小国ですらユーロが揺さぶられるのだ。それもキチンとした理論的な根拠がある。

   ノーベル経済学賞を受賞したマンデル・コロンビア大教授の最適通貨圏理論で、一つの通貨でカバーできる国・地域には条件が伴う。金融政策を使ってマクロ経済政策をするときに、ある地域と別の地域で経済変動が別の動きを示すのでは不味いのだ。

   これまでのデータによって、ユーロの国で経済変動がユーロ全体と異なる動きを示す国として、その食い違いの大きな順番で、ギリシャ、マルタ、スロバキア、アイルランド、エストニア、ポルトガル、キプロスの7か国が、EUのユーロ17か国からあげられる。このうち、アイルランド、ポルトガルは当初からユーロ国であるが、それぞれ経済危機になっている。残りの国は新たにユーロに参加した国だ。

   最適通貨圏理論からわかるが、ユーロは既に大きくなりすぎて一つの通貨では管理できなくなっている。しかし、政治家はさらにユーロ拡大の野心がある。これがユーロの不安定さの本質的な理由だ。

   政治的にユーロ離脱を避けても、再び7か国のどこかがまた経済危機になり、ユーロは動揺するだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。